安倍政権発足直後の昨年1月、関東財務局は「公務員宿舎勝島町住宅(仮称)整備事業実施方針」を発表した。
品川区の湾岸エリアに位置する大井競馬場前駅(東京モノレール羽田空港線)まで徒歩数分、電車に乗ればJR浜松町駅まですぐという立地で、総事業費約90億円と見込まれる最大14階建て(479戸)の官舎が建設される予定だ。昨年7月には入札公告が行なわれ、今年2月にも事業者が決まる。
安倍政権ヨイショばかりの大メディアは報じていないが、これは民主党政権時代に何度も見直しが検討された事業である。
まず2009年の「事業仕分け」を受けて入札が中止された。その後、財務官僚に“洗脳”された野田佳彦・財務相(当時)のもとで凍結が解除され再び入札の手続きが進められていたが、埼玉県朝霞市での官舎建設が国民の批判を浴びて中止に追い込まれると、手続きが進んでいた勝島町住宅の入札も再び中止された。
そうしたいわく付きの官舎が、もともとの計画だった682戸からはやや規模が縮小したものの、「羽田空港の24時間化に対応する職員のため」という理由でついに着工される。
もちろんシロアリ官僚たちは官舎の格安家賃が長年批判に晒されてきたことは百も承知で、批判をかわす布石も打っている。昨年12月に財務省は「国家公務員宿舎使用料の見直しについて」という文書を公表。格安とされてきた官舎の使用料を今年4月から段階的に約1.7倍に引き上げると発表した。
さも官民格差を解消する施策のように聞こえるが、決してそうではない。
勝島町住宅の家賃を現行の国家公務員宿舎法施行令の規定に照らし合わせて試算すると独身向けの1K(約24平方メートル、145戸)は月額約1万2900円、単身赴任者などが入る1DK(約34平方メートル、64戸)が約1万8200円、世帯用の3LDK(約69平方メートル、270戸)が約4万3000円となる。
「新築ならワンルームで家賃月額7万円、1DKで10万円はする」(地元不動産業者)という周辺相場を考えれば5分の1以下の安さである。
財務省が発表した値上げ後の数字ではどう変わるのか。新築物件の独身用(1K)の部屋は月額1万6700円、3LDKの世帯用で月額6万円になるだけ。まだ相場の4分の1以下の水準だ。
しかも単身赴任者の部屋(1DK)は値上げの対象外。十分に格安官舎は温存されるのである。こういうことを書かず、財務省の配ったペーパーそのままに「家賃1.7倍に値上げ」と宣伝する大新聞やテレビを「権力の犬」もしくは「発表ジャーナリズム」と呼ぶ。