神輿に担がれ、すぐさま放り出し、悠々自適の生活──そんな「殿」のイメージは、今回の東京都知事選出馬劇における意外なまでの執着心と戦略性によって覆された。政界を長く取材してきた森田実氏(政治評論家)と大下英治氏(作家)2人が、政治家・細川護熙氏の本質に迫る。
大下:私は今回の出馬は当然のことと受け止めています。彼が熊本県知事時代に取り組んだのは水俣病対策をはじめとする環境問題。「グリーンイシュー」は彼の原点なんです。3.11の東日本大震災の後は瓦礫を利用して森の堤防を作るプロジェクトをやってきたし、もちろんその頃から脱原発を主張してきた。もっとも、小泉さんがいなければ出馬はしなかったろうけど。
森田:政治家として彼が一番やりたかったのは、もともと地方分権でした。1980年代の時点で彼はすでに、地方分権に関するしっかりとした内容の本を書いている。当時の彼は凄い勉強家。最近の政治家は人の話を遮るけど、彼はちゃんと話を聞いて、知識を貯め込んでいました。単なる神輿に担がれた「殿」ではない。
大下:総理大臣になった時も、彼が一番やりたかったのは行政改革だった。地方分権を進めて、自治体に全部任せれば霞が関の人が減る、と。小泉さんに先駆けて、郵政民営化をやろうとしたのも彼でした。しかし、どちらも一緒に連立を組んでいた社会党が反対したために実現できなかった。一方、小沢一郎さんの目的は政治改革で、細川連立政権は小選挙区制を実現させました。政治改革が細川政権の功績といわれることに、彼は複雑なんです。
森田:行革が思うようにできなかったという思いは残っているでしょう。だから、首相を辞めた彼が、あえて都知事選に出るのは納得がいく。出馬表明での「首相になってできることもあるし、できないこともある。知事だからできることもあるし、できないこともある」という発言はそういうこと。