「私はいかなるときにも権力を濫用して不正を働いたことがない。いかなる利益も私の信念を揺るがすことができないからだ」──。妻や息子、娘ら親族の不正蓄財が報じられている中国の温家宝・前首相が最近、香港在住のジャーナリスト、呉康民氏に送った書簡の内容が公開された。書簡の形とはいえ、現役を引退した首相経験者が自らの身の潔白を訴えるのは、これまで例がない。
それだけに、大きな話題を呼んでいるが、折悪しく国際的なジャーナリスト組織の調査によると、温氏の息子と義理の息子の名前がバージン諸島やサモアなどカリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)に設立された企業や信託の顧客リストに掲載されていることが分かった。これが、不正蓄財疑惑という火に油を注ぐとなり、書簡の公表は逆効果になりそうだ。
温家宝ファミリーの不正蓄財については2012年10月、米紙ニューヨーク・タイムズが報じており、その額は少なくとも約27億ドル(約2700億円)という莫大なもの。これについて、中国外務省は「事実無根で、悪意のある報道」などと反論し、温氏も自身に対する指導部の調査を要請するなど身の潔白を主張していた。
ところが、同紙は昨年11月にも、温氏の娘の温如春氏(40)が北京で経営するコンサルタント会社が米大手投資銀行モルガン・スタンレーと顧問契約を結んでおり、年間90万ドル(約9000万円)の顧問料を得ていると報じている。
これに対する温氏の反論が呉氏への書簡とも受け取ることができる。