いよいよ中学受験のシーズン到来。中高年にとっては、子どもや孫が受験本番なのはもちろん、受験に備えた学習塾への入塾時期でもある。だが、中学受験さえ合格すれば“楽園”という、学習塾と私立中高一貫校が築き上げてきたイメージは、いまや崩壊しつつある。実子の受験勉強体験から取材を始め、『中学受験』(岩波新書)を上梓したジャーナリスト・横田増生氏が、中学受験ビジネスの実態に迫る。(文中敬称略)
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リーマン・ショック以降、“中学受験熱”は一段落したといわれている。現在、ピーク時には首都圏に5万人いた私立中高一貫校の受験者が、4万人台にまで減少。しかし、それでも依然として5人に1人が受験する計算になる。私立中高一貫校に合格した親子が手に入れることができるのは、“夢の楽園”のような学校生活だといわれてきた。その“夢”を構成する大きな要素は二つある。
一つは、6年間の教育内容を5年間で終わらせる“先取り授業”のため、最後の一年を受験勉強に充てることができるので、塾や予備校に行かなくても名の通った大学に合格できるというもの。もう一つは、公立学校のように、いじめなどの問題に悩まされることなく安心してすごせる、というものだ。
しかし、こうしたイメージの発信源をさかのぼっていくと、塾や私学関係者といった“楽園”というイメージを広めることで利益を得る立場の人たちであることが少なくない。中学受験の大きな特徴は、小学校による受験指導がないため、その受け皿となる塾が受験や志望校に関する情報を独占的、かつ恣意的にコントロールできるという点にある。
なかでも情報発信源として中心的な役割を果たしてきたのが日能研だ。日能研発行の『進学レーダー』の編集長・井上修は、日能研の経営理念の中核には“私学教”ともいうべき私立中高一貫校を礼賛する気持ちがあり、「これまで私立中学の受験をもり立ててきたし、われわれは私立中学受験という市場を作りながら、その市場を導いてきた」と自画自賛する。
日能研がその“私学教”ぶりを遺憾なく発揮したのは、2002年に実施される“ゆとり教育”の内容が発表された直後の1999年のことだった。首都圏の鉄道などの交通機関に、新学習指導要領から円周率の「3.14」が消え「3」となるとして、「ウッソー!? 円の面積を求める公式 半径×半径×3!?」――などのネガティブ・キャンペーンを張り、その後の“中学受験ブーム”を牽引してきた。
当時の文部省幹部が、「(世論の)風向きが変わった一つの要因」として、この広告を挙げるほどの破壊力があった。こうした巧みな情報操作の結果、「私立中高一貫校=夢の楽園」という図式ができあがっていった。