零下20度、肌を貫くような寒さの中、中国最北部に位置する黒竜江省のターミナル駅・ハルビン駅にはいつにも増して人の往来が見られた。人々が向かうのは、19日に開館した初代韓国統監・伊藤博文の“暗殺者”で、韓国の独立運動家・安重根の記念館である。
駅の待合室を改造した記念館の外観は当時のハルビン駅をイメージしたもの。入場は無料だが、入り口では身分証の提示を求められ、パスポートの番号を控えられた。背後からは、「おい、日本人がいるぞ」、という若者の野太い声が聞こえる。
周囲からの刺すような視線を感じながら内部に入ると、1階建ての館内は拍子抜けするほど狭く教室2つ分程度の簡素な展示スペースといった感じ。展示物もわずかだ。百合などの花に飾られた安重根の銅像と肖像画。それと反日運動の歴史を記したパネルなどがいくつか。
もちろん解説文には、「東亜和平主義唱導者」「世界平和のために死んだ義士」といった彼への賛辞とともに、お決まりの反日フレーズ、「日本の侵略的野心」「中国征服を狙う日本」といった煽動的な文字が躍る。
オープン直後とあって、館内はかなりの混雑。展示はハングル文字が完備されており、韓国語も多く飛び交っていた。ちなみに安重根が薬指を切り「大韓獨立」と書いたといわれる国旗の展示の前では、入場後早くも飽きてしまった小学生ぐらいの男児が地べたにダラリと座る姿が。人の出入りこそあるものの、説明書きばかりの展示に足早に館を後にする者も多かった。
さて、記念館には展示物のほかにもうひとつの目玉がある。狭い館内の最深部に備えられた窓だ。窓の外には駅のホームが見え、伊藤博文が暗殺された場所が見えるのだ。ところが窓に手を掛け身を乗り出して外を見ようとしたところ、手すりの一部がなく、床にゴロリと転がっている。