重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、70歳を迎える今なお、新しく開場した歌舞伎座の最前線でファンを魅了し続ける歌舞伎役者・中村吉右衛門。その原動力は何か。歌舞伎が持つ日本文化の魅力、それを次代に伝える覚悟について語る。
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歌舞伎の演目の多くは江戸時代に書かれ、そこには庶民の感覚や、彼らが垣間見た武家の忠義や世相といったものが色濃く反映されている。言葉には出さずとも相手の心中を察する「奥ゆかしさ」や、困った時は助け合う「思いやり」など、様々な人間模様が描かれております。
少し前まで下町の人間関係に見られた、近所の家のドアを開けて「お醤油貸してよ」という光景は多少お節介ではありますが(笑)。今のように誰とも知れないお隣さんが気付かないうちに孤独死していたということは、まずあり得なかった。
私自身はそうした現状を都会的というよりあまりに寂しく不人情だと思います。同じように思う方は、ひと頃までは確かにあった日本的な人情を再発見するために、歌舞伎をご覧になるといいかもしれない。
例えば東日本大震災の時に日本人が隣人愛や道徳心に溢れた国民だと海外から評されたのは、そういう部分でしょう? 義理人情に厚く、狭い島国で互いを思い合ってきた本来の日本人らしさが歌舞伎には見つけて余りあります。
もう一つは文化の成り立ちです。かつて漢字から仮名を作ったように、日本は外国から文化を取り入れ、なおかつ十分に消化して、自前の文化に昇華させることに長けている。料理でも何でもそうです。最近はその消化と昇華の手間暇を惜しんでか、欧米風の個人主義や効率主義をそのまま鵜呑みにするような風潮もございます。