近年急増する「ホワイト・モンスター」こと、理不尽な人。身近な人でも、ある日、急に豹変してモンスターと化す瞬間がある。新刊『理不尽な人に克つ方法』(小学館新書)を上梓したばかりの、元刑事でクレーム対応のプロの援川聡(えんかわ・さとる)氏が、「ホワイト・モンスター」の実例として、自身の目撃談を語る。
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「かけがえのない時間がぶち壊しじゃないか!」。突然、ひとりの老人が立ち上がり、和食レストランで大声を張り上げました。そのすぐ横では、泣きべそをかいている幼児を、その両親とおぼしき人があやしています。ウエイターが慌てて駆けつけました。
「お客さま、どうなさいましたか?」
「お前のところは、すぐに倒れるような椅子を使っているのか! 椅子が倒れて孫が落ちたんだぞ! 孫が怪我をしたら、どうしてくれるんだ!」
「申し訳ありません。お孫さんは大丈夫ですか?」
老人の顔は真っ赤。口角泡を飛ばし、叱責を続けます。「大丈夫なわけがないだろう。こんなに泣いているじゃないか!」。一見したところ、子どもに外傷はなく、涙を拭ったあとはあるものの、すでにケロリとしています。一緒にテーブルを囲んでいた若夫婦の説明によれば、満腹になった子どもが足をばたつかせて遊んでいるうちに、椅子から転げ落ちてしまったようです。大騒ぎするほどのことではありません。
ところが老人は、ウエイターに掴みかからんばかりの剣幕です。ウエイターはなにがなにやらわからず、オロオロするばかりですし、若夫婦は恐縮しています。私を含め、周囲の客は眉をひそめています。八つ当たりとしか思えない老人の振る舞いですが、私が見たところ、入店早々から不穏な気配を漂わせていました。商売柄、気にしてみていたのです。
「テーブルが汚れている。すぐに布巾を持ってきなさい」「子ども向けのメニューが少ないな」「飲み物を注文したのに、まだ来ない」
ウエイターやウエイトレスが近くを通りがかるたびに、老人はなにかと文句を言うのです。見かけは、というとこざっぱりしており、善良で優しそうな老人です。困窮しているようにも見えませんし、むしろお金持ちの部類でしょう。
ではなぜ、そんな好々爺が店員に食ってかかるような真似をしたのでしょうか。私は騒ぎが収まった後、「大変でしたね」と若夫婦にさりげなく声をかけ、背景を探ってみました。断片的な言葉をつなぎ合わせると、こんな像が浮かび上がってきました。