安倍首相の靖國神社参拝は、中韓のみならずアメリカからも非難と失望の声があがっている。彼の“愛国パフォーマンス”を憂慮する落合信彦氏が、安倍参拝が招く今後への影響を解説する。
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2012年12月4日。野党・自民党の総裁だった安倍晋三は衆院総選挙の公示日の第一声で「我々は3年前の自民党とは違う!」と聴衆に呼びかけた。3年間、民主党政権に裏切られ続けた有権者はその言葉を信じて票を投じ、選挙は自民党の圧勝に終わった。国民は安倍に期待していた。安倍政権の誕生から1年あまりが過ぎ、期待は失望に変わりつつある。今の自民党政権は謙虚さを失い、そのアロガンス(傲慢)は目に余る。
アベノミクスで景気が回復したと喧伝しているが、中小企業に勤める多くの国民の給料は上がっていない。一部の大企業だけを調べた恣意的な統計をもって「冬のボーナスが上がった」と強調し、税金を引き上げる論拠にしようとする。
月に1回以上のペースで外遊に出掛け、地球の裏側まで足を伸ばして予算は使い切る一方、東日本大震災の復興のための予算は人手不足で執行が遅れ、被災地では今も仮設住宅に暮らす人が10万人以上もいる。国民のためでなく、自分たちのため。困難な課題からは目を背け、自らに都合のいいことばかりに注目し強調する。アロガンス以外の何ものでもない。
昨年12月26日の靖國神社参拝にしても同じだ。もちろん、国のために散った英霊に敬意を示すのは当然のことだ。敗色が濃厚な中で特攻に出撃した若者たち、故郷から遠い異国の地で「靖國で会おう」を合言葉に散っていった兵士たちのことを思うと目頭が熱くなる。彼らの築いた礎の上に現在の日本があることを決して忘れてはならないし、中国や韓国の批判が筋違いであるのは間違いない(そもそも韓国にいたっては日本と戦争していない)。
しかし、安倍の今回の靖國参拝は明らかに国益を毀損した。そのことがわからずに、フェイスブックで数万件の「いいね!」が押されたことに気をよくしているようでは一国の指導者は務まらない。取り巻きからの称賛のためだけのパフォーマンスは、愛国ではなく自己愛だ。
自らの首相就任1周年の日に参拝したところにも自己愛を感じるし、今回の参拝で特に許し難いのは、日本に対して打つ手がなくなりつつあった中韓両国にわざわざ付け入る隙を与えてしまったという点だ。
韓国大統領の朴槿惠は日本の悪口を世界にバラ撒いていたが、経済の失速が明白となり支持率低下に頭を悩ませていた。「反日」を叫んでいるだけでは政権が維持できないと感じ始めていたところに、安倍は靖國参拝で格好の燃料を与えてしまった。反日世論は再び燃え上がり、さぞかし朴槿惠は安倍に感謝していることだろう。