「中国は120年前の日清戦争(1894年7月~1895年11月)の敗北で日本に釣魚島(尖閣諸島)を奪われ、現在の両国間の外交問題になっている。日清戦争の悲劇を繰り返さないためには、どうすべきか。中国の夢、強軍の夢を実現することができるのか。深刻な課題に直面して、われわれは歴史に恥じない回答を引き出さなければならない」
1月4日付の中国人民解放軍機関紙「解放軍報」が第6面のほぼすべてを使って掲載した長大な論文の一節だ。
タイトルは「中国4000年の夢の覚醒。すべては日清戦争の敗北による台湾割譲と200兆(銀2億テール=746万kg)の戦後賠償から始まった」である。これは清朝末期に西欧式の近代化を進めようとした思想家で政治家でもある梁啓超の言葉でもある。奇妙で危険な迷走を始めた習近平政権についてジャーナリスト・相馬勝氏が解説する。
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論文は「長い伝統をもつ巨大な帝国は致命的な打撃を受けた」とのドイツの思想家フリードリヒ・エンゲルスの言葉を引用し、清朝は戦争敗北で朝鮮の独立を認め、遼東半島や台湾・澎湖諸島を日本に割譲、当時の日本の国家予算の4.5倍に当たる2億3000万テール(銀で約800万kg)の賠償金を支払い、沙市、重慶、蘇州・杭州の4港を開港するという屈辱的な条件を受け入れなければならなかったと説明する。
その結果、帝国主義に呑み込まれて清朝は滅亡、群雄割拠化の後、中国共産党により再び国家は統一され、いま習近平指導部によって「4000年来の中華民族復興の夢が実現しようとしている」と礼賛する。さらに日清戦争のような敗北は2度とあってはならないと日本への敵愾心を煽っている。
中国の在外公館による異様なキャンペーンが始まったのは昨年末からだった。安倍晋三・首相が12月26日に靖国神社に参拝したことをきっかけに、程永華・駐日中国大使が12月30日付毎日新聞に厳しい批判を寄稿した。
この論文が口火となって、1月24日現在、崔天凱・駐米中国大使や劉暁明・駐英中国大使ら世界30か国以上に駐在する中国大使をはじめ50か国・地域を上回る中国人外交官が各国の代表紙やテレビ、記者会見などの場で対日批判を展開し始めた。
アフリカの小国マリやジンバブエ、南米のグレナダ、欧州のアイスランドやアルメニア、アジアのスリランカ、中央アジアのキルギス、さらに中東のイスラエルなど、靖国神社や尖閣諸島問題などには利害も関心もない国々も含まれている。
劉駐英大使などは、世界的なベストセラーである「ハリー・ポッター」に登場する闇の帝王・ヴォルデモート卿を引き合いに出して、「軍拡を進める日本は、ヴォルディモート卿になる」と指摘する悪乗りぶり。それらの批判に各国の日本大使館は必死の反論をしている。