TBS系の1990年代の昼ドラマ『天までとどけ』シリーズで大家族の頼れるお父さんを演じていたことから、若い世代には”良いお父さん”のイメージが強い俳優の綿引勝彦氏は、かつては悪役で活躍した。綿引が若いころに出会った先輩俳優について思い出しながら、歌手でも芝居が上手くなる人がいるのはなぜなのかについて語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。(文中敬称略)
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綿引勝彦は小中高と野球に勤しんできたが、高校二年の時に腰を傷めて挫折する。そんな折、クラスメートに誘われて観た俳優座の舞台『令嬢ジュリー』に感激を受け、演劇の世界に目覚める。その時の主演は仲代達矢と栗原小巻だった。
「世の中にこんな世界があるのかと衝撃を受けましたよ。キラキラしていて。ですから、仲代さんにはずっと憧れていました。映画『鬼龍院花子の生涯』で初めて共演した時は感動しました。
仲代さんを狙う刺客の役で立ち回りもあったんですが、僕は殺陣が苦手で。遮二無二にやった記憶があります。その必死さが画面に出ていたんじゃないでしょうか。こちらは敵役なので『あなたが好きで役者になった』なんて一言も言いませんでした。もう『負けるもんか』という想いで演じていましたね。『ここまでやっとたどり着いたか』という感慨がありました」
二十歳の時に劇団民藝の研究生に合格したのを経て劇団員となり、役者人生が始まる。
その後は民藝の舞台で活躍する一方、1970年代から1980年代半ばにかけては、テレビの刑事ドラマや時代劇などで強烈な悪役を数多く演じている。