「職業に貴賎なし」とはいうものの、性にまつわる仕事に対する世間の目は冷たい。AV男優として生きる男たちは、自分の生業にどう向き合い、息子や娘たちにそれをどう伝えているのだろうか?
つい先だってのこと──溜池ゴロー監督は、10歳になる息子から質問を受けた。「父さんの仕事はなに?」。さらに息子はつづけた。「それから、AVって?」。とうとうこの日が来たか。溜池監督は感慨無量だった。
溜池さんは、エロい美熟女を撮らせたら日本一といわれるAV監督。かつては、素人の人妻と自ら交わるハメ撮りもこなしていた。夫人の川奈まり子さんは、美熟女AV女優の元祖で、現在は数多くの官能小説を手掛けている作家だ。息子の素朴で無邪気な問いかけに、溜池監督は表情を改めた。
「お父さんの仕事はAV監督だ。ただし、AVってのは、まだお前は観ちゃいけない。18歳になるまで待たなきゃいけないんだ」
「……エッチなやつ?」
溜池監督は、「そうだ」とうなずく。息子は、じっと父の顔を見つめている。監督は眼をそらさずにいった。
「お前が14歳になったら、父さんの仕事のことだけじゃなく、お母さんのこともすべて話す。だから、お前もそれまでは、AVのことを調べたりするな。いいか、男同士の約束だぞ!」
溜池・川奈夫妻にとって、息子はひと粒種。監督が40歳、夫人37歳の時の子だ。溜池監督はいう。
「妊娠がわかった時から、いつかはAVについて尋ねられると覚悟をしていました。いわば、この日のために僕らの子育てがあったといってもいいでしょうね」
溜池監督と川奈さんの出会いは1999年。世に美熟女AVブームを巻き起こした、大ヒット作『義母~まり子34歳~』がきっかけだった。この作品で2人は恋に落ちる。
「AVに対する世間の眼がどういうものかを、僕ら夫婦は痛感して生きてきました。だけど、僕らはそんなAVこそが、人間の本当の姿を描くものだと自信と誇りをもっているんです」