合間に入るピコピコハンマーの音とともに、一度聞いたら頭から離れない「もぐらたたきのような人」を歌うシンガーソングライターの町あかり氏は、よく昭和の歌謡曲やアイドルを再現していると言われる。しかし、ももいろクローバーなどへの楽曲提供で知られる前山田健一氏や氣志團の綾小路翔氏が賞賛するのは、ただ懐かしさだけではないオリジナルの魅力があるからだ。昭和レトロと現在が合わさった、その魅力の謎の解明を試みた。
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――町さんの曲は、モテる上に気の多い男性への女性の嫉妬を歌った「もぐらたたきのような人」に限らず、親しみやすいメロディと明るい歌声なのに、詞を見直すと怖いような内容が多いですね。
町あかり(以下、町): 怖いと思うかもしれないですが、女の子にはありがちなことを歌っていると思います。たとえば「のっぴきならない事情」という曲は、あなたに会うのが面倒くさいから「のっぴきならない」と言っておこうという曲。その事情は何かといえば、着替えるのが面倒とか他人からは些細なことです。
そんな理由で「のっぴきならない事情」と説明するなんて、女の子にはよくあることなんじゃないかなと思います。バイトも学校もない日なのに「忙しい」と返事して誘いを断る女の子って、普通にいますよね。他の曲も、友だちと話していても感じる同世代の気持ちが曲になっていると思います。
――20代で町さんのように同世代の気持ちをテーマにした曲をつくっている人は、もっと抽象的な歌詞が多いように思います。でも、具体的で相手の存在がみえる曲が多いですね。
町:自分の気持ちを歌いたくて曲を書いているのではないのが大きな違いかなと思います。それに、同世代の人たちと聞いている曲が違うからだとも思います。私が好きな1970年代や1980年代に流行った曲は、シンガーソングライターではなく、作曲家や作詞家が歌手に向けて作っています。私も「町あかり」という歌手に曲や詞を書いているような感じにしたいと思って曲をつくっているんです。
――1991年生まれの町さんが30~40年前の曲に触れる機会はなかなかないと思いますが、なぜ、昭和のアイドルや歌謡曲に注目したのでしょうか?
町:音楽を熱心に聞き始めたのは中学生のときでした。それまでは、自分で絵本をつくって友だちに見せるなど創作することは好きでしたが、音楽への興味はそれほどなかったんです。家でも、休みの日には父がギターを弾いて歌を歌っていましたが、好きなのは松山千春さんや「黒の舟歌」が有名な長谷川きよしさんの曲で、ヒット曲というよりはギター好きな人に人気というものでした。
中学生の時、テレビの音楽番組でたまたまみたサザンオールスターズに夢中になりました。その後、古い曲へ注意が向いたのは、人と違うものを見つけたいという単純な動機だったと思います。中学生でしたから(笑)。具体的に曲に触れたのは、懐メロ番組を偶然にテレビで見たのが始まりです。その後はYouTubeですね。インターネットで探すと、本当にたくさんの情報が出てきますから。
――古い曲を初めて聞いたときには、かなり驚かれたのではないでしょうか?
町:驚いたことがありすぎて、例を挙げるのに困るくらいです。たとえば、沖田浩之さんの「E気持ち」などは歌詞も面白いですし、沖田さんのアクションも面白い。そのなかから一番がどれとは言いづらいですが、高校生のときはジュリー、沢田研二さんに夢中でした。
YouTubeでジュリーの昔の映像を見るたびに驚かされました。「TOKIO」の電飾がついてキラキラキラと光る衣装にも、同じフレーズの繰り返しが多い曲も衝撃的でした。覚えやすくて頭に残りますよね。沢田研二さんは曲が変わるごとに衣裳のイメージも全然、違っていた。キラキラで王子様みたいだったり、着崩していたり。
――当時の歌謡曲の演出がライブ時のパフォーマンスに影響されているのでしょうか?
町:沢田研二さんだけでなく、当時のアイドルからも大きな影響を受けていると思います。
たとえば小泉今日子さんがアイドルとして歌っていた頃の映像を見ると、ちょっと気だるく振りをしていて、恥ずかしそうに踊っているようにも見えて、それもまたかわいいんです。だから「町あかり」は今のアイドルのように踊りきらない。すごく頑張らない、特徴的な振りになるようにと決めているんです。