ソチ五輪は多くのアスリートの大人力を目の当たりにする機会でもあった。もちろん金メダルはあの人だ! 大人力コラムニストの石原壮一郎氏が熱く語る。
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「魂がこもった演技」とは、まさにああいう演技のことを言うのでしょう。ソチ五輪のフィギュアスケート女子のフリースケートで浅田真央選手が見せた演技、そして演技が終わったあとの感極まった表情は、テレビの前の私たちの心を激しく揺さぶりました。
ショートプラグラムは、自ら「どん底」と表現するほどの不調に終わりましたが、そのときに話題を呼んだのが元首相で、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長を務める森喜朗氏の「あの子は肝心なときにいつも転ぶ」といった発言。本人もあれこれ弁解していますが、悪気があろうとなかろうと、失礼この上ないことは確かです。
そんな無神経な発言に対して、当の浅田選手はそれはそれは素晴らしい反応を見せてくれました。2月25日に外国特派員協会で記者会見にのぞんだときのコメントは、いわば言葉のトリプルアクセル、鋭い切り返しのサルコウ、たくまざるユーモアのトゥループでした(すいません、用語の意味はよくわかってません)。もし大人力フィギュアの部門があったら、文句なしに金メダルに値する華麗な舞いだったと言えるでしょう。
「アスリートとして、オリンピック選手として、森元首相の発言をどう思いましたか? オリンピック委員会の会長としてふさわしいものだったのでしょうか?」という海外メディアからの質問に対して、浅田選手はこう答えます。
「私自身、それを聞いたときは終わったあとだったので、『あぁ、そんなこといっていたんだぁ』というふうには思ったんですが。まぁ人間なので、それは失敗することもありますし、『しょうがない』と言えば、そうではないと思うのですが、やはり自分も失敗したいと思って失敗しているわけではないので、それはちょっと違うのかなとは思ったんですが。でも、森さんはそういうふうに思ったんではないかと思いました」
森元首相を批判したり非難したりする言葉は、ひと言も言っていません。あくまで自分の気持ちとして「ちょっと違うのかなと思う」と言うことで、抗議のニュアンスを雄弁ににじませています。「でも、森さんはそういうふうに~」のくだりも見事。フランスの哲学者・ヴォルテールは「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」と言っています。これは民主主義の基本原則を端的に示す言葉として有名ですが、浅田選手は計らずもこの精神の大切さを教えてくれました。
そしてクライマックスは、やはり海外メディアから「森さんは、あと5年間会長を務めるわけですか、日本人はそれに耐えられると思いますか?」という答えづらい質問に対する返し。「私は、今べつになんとも思っていないですけど、たぶん森さんは、ああいう発言をしてしまったことについては、今後悔しているんじゃないかなと少しは思っています」とニッコリ笑いながら勢いよくジャンプし、見事な着地を決めました。