1か月の入院療養を終えて先月24日、職務に復帰した小松一郎・内閣法制局長官の第一声は「首相の方針に従ってやるべきことをやる」だった。官僚の見本のような発言だが、この人が言うと、一官僚の発言以上の重みがある。
小松長官は、安倍晋三首相が「集団的自衛権の行使を容認する」という憲法解釈の大転換を行なうための“切り札”として昨年8月に駐仏大使から内閣法制局長官に抜擢した人物だ。
そもそも外務省出身で内閣法制局の勤務経験がなく、極めて異例の人事だった。第1次安倍内閣で設置された有識者会議で解釈見直しを提言した報告書の取りまとめに関わり、理論的支柱として安倍首相の信頼を獲得。長官就任で解釈見直しへ突き進むと見られていた。
しかし、入院後、官邸には「復帰は無理」という見方が強かった。政治ジャーナリストの歳川隆雄氏が明かす。
「小松氏は検査で胃がんが見つかったとされる。1月下旬に開腹して摘出を試みたが、すでに転移が見られ、結局、摘出手術は行なわれなかったようです」
そうした体調面を考慮し、「内閣の顧問弁護士」「憲法の番人」といわれる法制局長官の重責を担わせるのはあまりにも酷だ、と官邸は後任人事の選定に入っていたが、一転して続投へと翻った。その裏には安倍首相を感動させた小松長官の一言があったのだという。
「官邸は2月初旬に後任長官人事を検討していました。しかし、その動きを察知した小松長官は人を介して病床から安倍総理にメッセージを送った。『命に代えても、憲法解釈変更は私の手で成し遂げたい。何卒私の任を解かないでほしい』と。これを聞いた総理は、『小松さんは戦死の覚悟だ』と痛く感動し、続投を決めたといわれている」(歳川氏)