国際情報

中国人民解放軍サイバー部隊との攻防 中国嫁日記作者が語る

2010~2012年の単行本未収録ぶんをまとめた同人誌版中国嫁日記

 ひとまわり以上年下の、中国からやってきた20 代のお嫁さんと40 代オタク夫との日常生活を描く人気ブログが原作の『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)著者の井上純一氏が、玩具製造会社の仕事のため広東省東莞市へ移住してもうすぐ2 年になる。中国生活に馴染み始めた井上氏に、中国で生活する上でもっとも苦労しているネットの遅さと、中国ネット民と中国人民解放軍との攻防について聞いた。

* * *
――中国はネット大国と言われているのに通信速度がとても遅いそうですね。

井上純一(以下、井上):光回線で8メガ、ADSL で6メガしか出ません。日本なら100メガが当たり前なのに。それでも我が家は8メガADSL を引けたのですが、正確にはマンション全体で8メガらしいです。なので、他の部屋の人が回線を使うととてつもなくのろくなる。私のツイートが明け方に多いのは、みんなが寝ていてネットが速くなるからです。でも、たいていの家の通信環境は2 メガしか出ないと妻の月(ゆえ)に言われました。

――中国といえばYouku や56.com など動画サイトの人気が高いのに遅いままなんですね。

井上:中国の動画サイトはすさまじく解像度が低いですよ。でもまあ、中国の人にとっては観られるだけでいいんですよ。

 先日、国営放送の中国中央電視台(CCTV)で「夢の100メガ生活」という特集をしていました。政府がネット環境向上キャンペーンを始めていて、実験的に100メガの回線が引かれている家があります。その家の人たちがインタビューで「映画があっという間にダウンロードできるんです」と嬉しそうに答えていました。そりゃあ今の2メガから比べれば夢かもしれないけれど(笑)。

――遅い上にサイバー万里の長城と皮肉られるネット検閲システム「金盾」があって、中国のネットは普及に反比例して不便ですね。

井上:検閲されない通信をしたいときには、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)という技術を使うのが一般的ですが、そのネットワークに金盾は負荷をかけてくるんです。VPN は暗号を使って接続するのですが、その解読は事実上不可能です。内容を検閲できないくらいなら通信そのものをつぶしたい。だから金盾はVPNのような通信が発生している状況を探知して、自動的にその通信へ負荷をかけ、速度をとてつもなく遅くするんです。

 遅すぎてまともに使えなくなるからVPNをつぶすのに成功するわけですが、この機能は作動するまでに時間がかかります。だから負荷が重くなると別のVPNに切り替え逃げ回るという使い方をするんです。金盾は、中国の電脳世界を支配するやっかいな虫みたいなものですよ。この追いかけっこは、まるで1980年代に流行したSF、たとえば『ブレードランナー』や『AKIRA』のようなサイバーパンクの世界なんです。

――香港ならともかく、中国本土にサイバーパンクというイメージはなかったですね。

井上:現実の中国は貧富の差が本当に大きい。そして都市が無秩序に拡大するスプロール化が起こり発生した貧民街と、金持ちだけが住み、その中で生活が完結する巨大建造物のアーコロジーという相容れないエリアが出来上がっている。そして、私のように当局、金盾と追いかけっこする連中がいる。あと、画面を覆い尽くすスモークとか、1980年代に流行ったサイバーパンクの世界は今、中国で実現している感じです(笑)。

 私はVPNに負荷をかける金盾しか知りません。でも中国版ツイッターと言われる新浪微博(シナウェイボー)などSNS系で活動している人は、実質的な脅威にさらされている。人民解放軍電脳部隊の軍人たちが直接、危ない書き込みを見つけて消したり、書きこんだ人を逮捕したりしているのですから。中国には自由なネットは存在しない。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン