現在、仮設住宅や親戚宅などに身を寄せる東日本大震災被災者は約27万人。その中には、原発事故で自宅が「帰還困難区域」に指定され、家も土地もあるのに放射線量が高いために帰還できない人が約2万5000人もいる。
「このまま避難生活を続けるのはもう限界。新しい土地で生活を再建するため、政府に家と土地を買い取ってほしい」
全町民が避難生活を強いられている福島県双葉町ではそんな声が強まっている。すると、それを待ち構えていたように、政府は原発事故被災地の“土地買い叩き”を始めたのである。
環境省は除染作業で集めた線量が高い汚染土や落葉、焼却灰などを保管する「中間貯蔵施設」を双葉町と大熊町に位置する福島第一原発周辺の土地約19平方キロに建設する方針を決定し、来年度予算案に用地買収費と施設建設費で1012億円を盛り込んだ。土地の買取基準金額はまだ決まっていないが、予算全額を土地の買い上げに回すとして単純計算すると1平方メートル=約5000円だ。
原発事故と津波の二重の被害を受けた南相馬市では、一足先に「防災集団移転促進事業」が進んでいる。市が国の補助金で移転先を整備し、被災者の土地を買い取って移転させる事業だ。その買取価格(1平方メートル)は、宅地が4920~1万1280円、農地(田)が1300円だった。
「条件面で贅沢いえる立場ではありません。買い手がない土地や家を買ってもらえるなら仕方がないとあきらめて売る人が多い。新しい土地に居を構えるには、先立つものがなければどうしようもありませんから」(同市の避難者)
それでも、買い取ってもらえるだけまだいい。国の買収予定地は帰還困難区域の約20分の1で、残りの土地の所有者は売りたくても売れず、東京電力から支払われる賠償金が頼り。しかし、国と東電が決めた賠償基準は、宅地は震災前の時価、農地(田)は双葉町の場合1平方メートルあたり600~960円にすぎない。