ライフ

足利事件の真犯人特定 捜査機関が動かなかった理由に迫る書

【書評】清水潔著「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」/新潮社/1680円(税込)

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 * * *
 大変な問題作である。著者はかつて週刊誌記者だった時代、独自取材によって警察よりも早く「桶川ストーカー殺人事件」(1999年)の犯人を特定し、「伝説の記者」と呼ばれるが、本書で明かされる事実はそのとき以上に衝撃的だ。

 話は2007年6月に遡る。1979年から1996年までの間に、栃木・群馬の県境で5件の幼女誘拐殺人事件が起きていた。極めて特異な現象であり、内容の類似性を考えると、同一犯による連続犯行が疑われる。著者はそれを「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と名付けた。

 だが、その見立てには重大な欠陥があった。他の4件は未解決だが、4件目の「足利事件」(1990年)は犯人として菅家利和さんが逮捕され、無期懲役が確定していたからだ。しかし、著者は強い違和感を覚えた。もしも菅家さんが冤罪だったら? やはり5つの事件に連続性が疑われ、〈真犯人は、今もどこかで平然と暮らしている〉ことになる。そんなことがあってはならない、との思いに駆られた著者は徹底した調査と取材を始めた。

 周知のように、逮捕の決め手となったDNA型鑑定についてのちに再鑑定が行なわれた結果、菅家さんは犯人ではないことが証明され、再審が開かれて2010年3月に無罪が確定した。著者は所属する日本テレビの番組で、メディアのなかで最初に、そして一貫して自供やDNA型鑑定の問題点を指摘するキャンペーンを張った。

 著者が調査と取材を行なううちに、自供が誘導、強制によるものだったことばかりか、捜査過程で真犯人の存在を示唆する重大な目撃証言が無視されたこと、警察の嘘のリークに基づいて「菅家さんは大量のロリコンビデオを所有していた」と報道されたが実際には1本も持っていなかったことなどが明らかになった。

 警察のDNA型鑑定とその読み取り方の信頼性にも重大な疑義が生じた。そして、再鑑定や再審の過程では、鑑定のための証拠品の管理が実に杜撰だったことなど、当初のDNA型鑑定の非科学性が浮き彫りになった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン