かつて、働く人たちの夢は、家族のために立派なマイホームを建てることだった。30~40代で長期のローンを組み、一軒家やマンションを購入する。そうした夢を実現した人たちはいま、60歳以降のシニア世代になった。
昨今、その持ち家が、老後の生活を脅かす存在になっている。2010年の国勢調査によると、65歳以上の持ち家率は81%にも及ぶ。全世帯平均の62%を大きく上回り、シニアの大半が持ち家に暮らしていることになる。
65歳といえば、1980年代後半に30代後半の働き盛りを過ごした世代である。結婚して家庭を持ち、子供もある程度大きくなり、ちょうど家を買うことを具体的に考え始めた時期に、バブル経済が燃え盛った。
不動産価格が急上昇し、「今買わないと一生手が出なくなる」「不動産の価値は上がり続けるから、早く買ったほうが得」と、みんながこぞってマイホーム購入に走った。もちろん、前後10年ぐらいの幅の世代も、同様の感覚を持っていただろう。
バブル最盛期、住宅ローン金利は年率8%程度まであがった。35歳で3000万円の35年ローンを組むと、70歳で完済するまでに金利分を含めてトータル9000万円近くを支払わなければならない。現在の金利2%で借りた場合のおよそ2倍以上になる計算だ。
それでも買った時は“なんとかなる”はずだった。
「それまでは収入が右肩上がりだったので、退職までに繰り上げ返済するか、遅くとも退職金の一部を使ってローンを完済。老後は残りの退職金と年金で暮らしていくというライフプランが一般的に描かれていた。
ところが、バブルが崩壊し、収入も退職金も激減したことでこのプランも崩壊。退職時に住宅ローンを清算すると、老後の蓄えがゼロになってしまう人が増えている。それどころか、退職金で清算しきれずにローンが残り、老後の蓄えもないという最悪のケースに陥る人も少なくない」(住宅評論家・櫻井幸雄氏)
70歳まで、わずかな年金から住宅ローンを払い続けなければならない「持ち家ビンボー」が続々と出現しているのが現実なのだ。