首相在任中から憲法改正を強く主張し、政界引退後もライフワークとして発信を続ける中曽根康弘・元首相(95)と紙面を通じて長年にわたって憲法改正を訴え続けてきたナベツネこと渡辺恒雄・読売新聞グループ会長兼主筆(87)……戦前生まれで戦争の恐ろしさを知る「保守の重鎮」たちがいま、“自主憲法制定”という目標を共有するはずの安倍首相が進める性急な「解釈改憲」に異を唱えている。
さらに自民党幹事長や内閣官房長官(小渕内閣)を歴任した野中広務氏(88)は、さる2月19日、参議院の「国の統治機構に関する調査会」に参考人として出席し、「戦争の危機が迫っている」と安倍首相の解釈改憲の手法を批判した。
中曽根氏、渡辺氏、野中氏に共通するのは、いずれも軍隊経験があることだ。中曽根氏は海軍の将校として、渡辺氏と野中氏は陸軍兵士として終戦を迎えた。
第1次安倍内閣の官房長官で自民党憲法調査会の事務局長を務めた与謝野馨・元財務大臣(75)は、中曽根氏の秘書出身で、渡辺氏とも深い親交がある。その与謝野氏が「戦中派の保守」の思いをこう語る。
「安倍首相の行動は純粋な気持ちでやっていることは間違いないので、評価してあげるべきだと思っている。しかし、私も中曽根さんと同じで、そんなにバタバタやることではなく、国際情勢なども見ながら、極めて慎重にやった方がいいと考えている。
梶山静六さんという政治家がいました。(陸軍士官学校出身で田中真紀子・元外相が“軍人”と呼んだことから)タカ派の権化みたいに思われていたかもしれませんが、安全保障については非常に慎重な方で、『君らは若いから知らないだろうけど、戦争は非常に悲惨なものなんだ。政治家は常にそれを肝に銘じてものを言わなければならない』と何度も聞かされました。
中曽根さんや後藤田(正晴)さん、宮沢(喜一)さんなど戦争を経験した世代は、慎重に動くことを旨として日本の安全保障を考えていた。自民党にはそういう“軸”が脈々とあるんです」