「ノーベル賞級の発見をしたヒロイン」から「稀代の詐欺師」呼ばわりされるほどの急転落──。STAP細胞の“発見者”である生物学者・小保方晴子さん(30)は、画像流用や他者論文の無断盗用(コピペ)疑惑など、なぜすぐにバレるようなことをしてしまったのか。
同じ細胞生物学の分野に身を置く複数の研究者に取材をすると、「研究者倫理として許されない」「所属する研究所や共同研究者に大きな迷惑がかかる」と怒りを露わにする人もいれば、一方で「小保方さんの立場も理解できる」という人もいた。
彼らの話をまとめると、小保方さんの行為の理由として、大きく4つが指摘できそうだ。
【理由1:特許申請の焦り】
「小保方さんは学術論文の発表以前に、ビジネスの世界で役立てるため国際特許の申請を急いでいた。いや、周囲に焦らされていたのではないか」
と40代の研究者。STAP細胞は、英科学誌『ネイチャー』に発表される9か月前の2013年4月、米当局に特許が出願されていた。出願者は理研と東京女子医大、ハーバード大の関連病院の3施設で、発明者には小保方さんら7人が名を連ねている。
「再生医療に応用できる細胞生物学の分野は、いま最もカネになる科学分野といわれている。後々、実用化された時の特許ライセンスを睨み、学術論文の発表より先に国際特許を申請するのは、2000年頃から当たり前になった。
京大の山中教授のiPS細胞も、学術論文の発表より先に特許を申請している。小保方さんが周囲から特許申請を急かされていたことは間違いない。とくに理研は、京大のiPS細胞の特許に対抗して、生物学の分野でビジネスに直結する、つまりカネを生む特許を取ることを目指す方針を打ち出していた。
そうした特許戦略のなかで、まだ若い小保方さんは上司や先輩に強くいえず、研究がそこまで進んでいないのに特許申請に踏み切ってしまったのではないか」(同前)
【理由2:特許申請によって学術論文を急がされた】
特許を申請すると、次は学術論文を急がなければならない状況に追い込まれる。
「特許申請は、学術論文に比べて圧倒的に情報量が少なくて済む。しかし、特許申請によって世界中の人が研究の中身を知ってしまうことになり、誰かがそれを参考にして先に学術論文を発表してしまうこともありえる。
するとその人が学術の世界では“第一人者”として認定されかねない。なので、特許を申請した以上は、より精度が求められる学術論文を早く作成し、発表しなくてはならない。そうした焦りも、彼女にあったのだろう」(同前)
時間に追われるがえゆえに、不完全な論文を発表してしまったのだろうか。一方、こんな見方をする科学ジャーナリストもいる。
「特許申請すれば、再生医療の研究者や医薬品業界から否応なく注目され、若いのにすごい発見をしたとチヤホヤされる。そこで小保方さんが有頂天になって、多少のごまかしは許されると勘違いしてしまったところもあるのではないか」