ビジネス

話題の伊勢丹公式PVでキレキレのダンスを見たライターの述懐

 東京の大手百貨店「伊勢丹」のオフィシャルソングPV「ISETAN-TAN-TAN」が人気を呼んでいる。3月31日にYouTubeにアップされ、4月27日までの間で再生回数は23万回を超えた。「伊勢丹には義理があった」と、フリー・ライターの神田憲行氏が語る。

 * * *
 PVは矢野顕子が作詞作曲した「ISETAN-TAN-TAN」に合わせて、Perfumeの振付けで知られるMIKIKOの振り付け・演出で伊勢丹社員約500名がダンサーとして出演している。踊ってる人が全員社員のみなのかわからないが、1分58秒くらいから制服姿で踊る3人の女性のうち、ショートカットの女性のダンスがキレキレで目を見張った。

 私は伊勢丹には義理があった。

 大阪から東京に出てきたとき、私は25歳くらいだったと思う。東池袋の風呂無し家賃3万3000円のアパートに住んでいた。

 当時憧れていた仕事は、ある週刊誌の小さなコラムだった。600字あるかないかだが、原稿料は3万円だった。

 毎月4回のチャンスがある。1回書ければ、翌月も東京に居られる。何回も企画書を出すのだが、通らない。やっと通ったのが、とある有名ブランドが発売した男性用香水の企画だった。今は一般的になったが当時は男性用香水は珍しく、そのブランドは大きなCM展開をかけていた。

 ブランドに電話取材して、原稿を書いた。編集者からの返答は、「これを買っている人の声を知りたいですね」。

 買い手をを見つけるために、まず新宿の小田急百貨店の売り場に2時間くらい立った。ひとりか、ふたり、買いに来たのだが取材は断られてしまった。

 それで河岸を変えて伊勢丹の化粧品売り場に立ったのだが、辛くなってきた。私の記憶では、その香水は3万円もした。自分の家賃、自分がなんとか欲しいと思う原稿料と同じ価格の香水をヒョイヒョイ買う人がいる。しかも同じ20代だ。

「百貨店は資本主義の城」と聞いたことがある。売り場の邪魔にならないように隅っこの柱のかげに立って、お買い物を楽しむ人たちの観察を強いられる私という存在。でも私はお金が欲しかった。立ちっぱなしで痛くなって足を拳でポンポン叩きながら、ひたすら買いに来る人を待った。

 すると、伊勢丹の広報部長が売り場に降りてきた。取材だからもちろんブランドにも、デパートにもあらかじめ筋を通してある。彼は、

「あらあら、立ってお客さんが来るの待ってるの? 大変だねえ」

 といって、私の隣に立って、お客さんが来るのを待ってくれた。どのくらいの時間かわからない。でも立派な大人が「25歳のフリーライター」を馬鹿にせず、一緒に立ってくれたのが嬉しかった。しかも買いに来たお客さんに名刺を出して、取材のお願いまでしてくれた。「取材をお願いしたいんですが……」と言って次に差し出す名刺の肩書きが「フリーライター」と「伊勢丹広報部長」では100億倍信用度が違う。おかげでちゃんと話を聞くことができた。

 それから私は一方的に伊勢丹に恩義を感じるようになった。人生初めて買ったスーツも伊勢丹である。取材用の鞄も伊勢丹で買った。東南アジアを取材中にその鞄の肩ヒモの部分が壊れて、小脇に抱えて我慢して我慢してタイまで持ち帰り、バンコクの伊勢丹で新しく鞄を買い直したこともある。

 高いもんは伊勢丹で買う! 伊勢丹には義理がある!

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン