その女と出会った一家は人生を狂わせ、財産を搾り取られた。ある者は虐待された末に行方不明に、さらに幾人は「亡骸」として発見された。女の名前は角田美代子(享年64)。2011年11月に凶行が発覚し、審判が近づいていた2012年12月12日、女は獄中で自ら命を絶った。結果、事件の謎は解き明かされることなく、捜査終結も宣言された。
真相解明は永遠に叶わないのか。このたび事件を2年間追い続けたジャーナリスト・小野一光氏が核心を知る角田美代子の夫・鄭頼太郎(てい・よりたろう、64)の肉声を得た。キーマンの獄中告白とともに判明したのは、いまだ明るみに出ていない犠牲者の存在と事件の闇の深さであった。
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『関西道路地図』と表紙に記された地図帖がある。
そのなかで「尼崎」と表示されたページを開くと、目を凝らして探さないと見つからない、ボールペンによって書き込まれた“点”が3カ所あった。
「あんなあ、これな、あの角田美代子のダンナが自分で点をつけたんや」
目の前の男性が口を開いた。角田美代子のダンナということは、現在3件の殺人罪などで起訴されている内縁の夫、通名・東(あずま)こと鄭頼太郎(てい・よりたろう)だ。
2011年10月に兵庫県尼崎市で美代子らに監禁されていた大江香愛(46)が脱出し、大阪府警に駆け込んだことに端を発し、次々と周囲での殺人が発覚した尼崎連続変死事件。美代子を筆頭にした“角田ファミリー”ら11人が逮捕された。
そのうち大江家関係者の3人を除く8人が被害者複数の殺人罪で起訴され、周辺での死者・行方不明者数が13人に及ぶなど、稀代の大量殺人事件の様相を呈している。
今年3月13日に一連の事件を担当していた合同捜査本部が解散したことで警察の捜査は終結したが、被害者数の多さから、年内の裁判開始を危ぶむ声すらある。
また、2012年12月に美代子が兵庫県警本部の留置場で自殺してしまったため、全容解明には暗雲が垂れ込めているというのが現状だ。
「この点をつけた場所に遺体を埋めたんやと。しかも、そのことは警察に喋ってへん言うとったわ」
そう語る彼、田崎浩之(仮名)は、留置場で頼太郎と同房にいた人物である。それまでの取材で得てきた頼太郎像は長髪の優男で、事件を主導した美代子の“言いなり”といった印象だった。しかし、田崎が初めて目にした頼太郎は、身長180センチ近くある長身で、細身ながら筋肉質でガッチリした体型だったという。
「向こうは最初はちょっと様子見いう感じで、距離を置いとったんですわ。せやけど、わしが隣の房の人らから挨拶されとんの見て、仲良うしといたほうがいい思たんでしょうなあ。それから喋りかけてくるようになり、“調子乗り”いうか、けっこう饒舌になっていったんよ。ほんで内緒話までしてくるようになった」