遠足バスの手配を忘れた旅行会社員が、遠足を中止させようとニセの手紙を学校に送っていた事件が発覚した。あまにもバカバカしい思考だが、大人力コラムニストの石原壮一郎氏が「大人のリカバリーの仕方」を考える。
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あきれていいのか腹を立てていいのか笑っていいのか、いろんな要素ギッシリの事件です。JTB中部多治見支店の男性社員が、県立高校の遠足用大型バスの手配ミスを隠すために、生徒を装って自殺を示唆する内容の手紙を学校に届けて、遠足が中止になるように画策。ところが、学校は全校生徒の意思を確認した上で遠足を決行することにしたため、翌朝になって生徒が待っていたのにバスが来ないという事態になりました。
この社員は「遠足に行くのが死ぬほどつらい。消えたい。中止してほしい」などと書いた手紙を自分で持って、学校の玄関のところに落ちていたと言って学校に届けたとか。姑息なごまかしはあっけなくバレて、知事が「言語道断」と非難したり、観光庁が営業停止などの処分を検討したりなど、どんどん騒ぎが大きくなっています。
ミスをウソで隠そうとしても泥沼に陥るだけ――。今回の事件は、そのことをあらためて思い知らせてくれました。ただ、大人にとって仕事でミスをしてしまうこと自体は、他人事ではありません。誰しもウソで隠したい誘惑にかられたり、小さなウソをついてしまったりした覚えはあるはず。このアホな社員を反面教師に、ミスをしたときの大人のリカバリーについて考えてみましょう。
前日の段階で「あっ! バスの手配してない!」と気づいたとき、この社員はどうすればよかったのか。ひとりで抱え込んでしまったのが、最大にして根本的な失敗です。上司をはじめ周囲に「絶体絶命のピンチ」ということを知らせて、力を貸してもらう体制を作る必要がありました。みんなの前で土下座のひとつもすれば、めちゃくちゃ怒られはするでしょうけど、誰かのつながりのあるバス会社に無理を聞いてもらえた可能性もゼロではなかったはず。学校でも校長先生に土下座して、すべて話した上で対応策をいっしょに考えることもできたでしょう。
ただ、その社員は言い出す勇気を振り絞れず、ダメな方向に知恵を絞ってしまいました。大人としてあらためて学びたいのが、「弱味を見せられる大人は強い」という教訓。その社員がどういうタイプだったかはわかりませんが、常に完璧を目指していたりカッコイイ自分を見せようとしたりしていると、イザという場面で弱味を見せられません。