【書評】『日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る』マイク・モラスキー/光文社新書/780円+税
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
外国人の視点からエキゾチシズムとして日本の食文化について書いた本がブームだが、本書はそれとは明確に一線を画する。著者はアメリカ人だが、日本居住歴はすでに20年に達し、初来日以来、毎日のようにどこかの暖簾をくぐるインサイダーであり、〈重度の居酒屋愛好家〉〈赤提灯依存症〉である。
また、銘店やそこが提供する酒肴を紹介した、いわゆる居酒屋本とも趣を異にする。本書には全国の銘店の名が数多く出てくるが、店の紹介が主目的ではない。
本書は居酒屋を日本文化のひとつと位置づけ、〈居酒屋という〈場〉の社会的な意義や貢献を考えながら、赤提灯や大衆酒場に代表されるローカルで庶民的な呑み屋の魅力をより多面的に考察〉したもの。この一文からもわかるように、著者が好んで通い、日本の呑み屋文化の核心と位置づけるのは地元に根付いた個人経営の赤提灯や大衆酒場だ(以下、そのような店を『居酒屋』と表記する)。
著者はまず、立ち呑み屋に始まり、大衆酒場、焼き鳥屋、おでん屋、屋台、角打ち、小料理屋、大衆食堂……など、和風の酒場を細かく分類し、それぞれの特徴を記し、細分化されていること自体が日本の呑み屋文化(さらに広く飲食文化)の特徴だとする。そして、『居酒屋』を都市社会学で言う「第三の場(空間)」という概念で捉える。
〈とりたてて行く必要はないが、常連客にとって非常に居心地のよいゆえに行きたくなるような場所〉のことだ。そのような店で、客は肩書を捨てたひとりの人間として存在し、まるで自宅にいるかのように気楽に振る舞うことができる。