高級スーパーの代名詞である成城石井が売却される見込みだ。買収に意欲を燃やしているのは、名前が挙がっているだけでもコンビニのローソンや総合小売業のイオン、そしてデパートの三越伊勢丹まで多岐にわたる。
成城石井は2011年5月より三菱商事系投資ファンド、丸の内キャピタルの傘下に入って経営再建を続けた結果、高額消費の流れにも乗り業績は好調。いまや店舗数は100店を超え、売上高518億円(2012年12月期)にまで拡大した。そこで、「機は熟した」とばかりに売却される方向になったというわけだ。
しかし、例えば関東で急成長する食品スーパー、ヤオコーの売上高2740億円(2014年3月期)と比べると、成城石井は中堅スーパー以下の規模に過ぎない。ではなぜ、大手小売り各社の“垂涎の的”となっているのか。
流通アナリストでプリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏が解説する。
「確かに1000億円規模にならないと一人前のスーパーとはいえませんが、成城石井には経常利益が業界平均の倍以上の6%台と驚くべき収益力があります。その理由は、単に商品を仕入れて売るだけではなく、成城石井が自ら開発した惣菜やデザート、パンなどオリジナル商品をたくさん並べているために粗利率が高いのです」
チーズケーキ、ポークウインナー、ハンバーグ、キムチ、ドレッシング……。成城石井の自家製商品の数々は、価格は高めだがテレビ番組やネットのランキングでも頻繁に登場しているので購入したことのある人は多いだろう。また、直輸入のワインやチーズ、生ハムなども豊富に取り揃えているのも特徴である。
なにも独自色を強めた商品群だけが成城石井の魅力ではない。鈴木氏が続ける。
「キーワードはずばり“都市型小型店”です。いま、首都圏では工場跡地や臨海地域の再開発が進み、高層マンションが建ち並んでいます。それらの空白地帯にはコンビニも多数出店していますが、コンビニの品揃えだけでは生鮮食品も少なく生活者のニーズに応えられません。そこで都市部の好立地で小型店を展開している成城石井の成長余地は今後も大きいといえます」
当サイトでも報じてきたように、コンビニがスーパー化したりドラッグストアと協業したりしているのは、新たな首都圏の生活者を囲い込むための“攻略”と見れば分かりやすい。
その意味では、成功モデルである成城石井を手中に収めることによって、小売業界の勢力地図が変わってくるかもしれない。
「売却先でもっとも可能性が高いのは、親元が同じ三菱商事のローソンでしょう。コンビニスーパーを始めるなど大都市の生活者ニーズを捉えようとしていますしね。三菱商事と資本提携しているイオンも有力ですが、噂されている500億円という買収額で折り合いがつくかどうか。
三越伊勢丹が関心を示しているのは、高品質スーパーのクイーンズ伊勢丹が赤字で不振だからです。小型店舗のノウハウもないので成城石井の既存店舗は喉から手が出るほど欲しいと思います」(鈴木氏)