貧困や孤立をリアルに描くNHKドラマが注目されている。だがそこには違和感も……。コラムニスト・オバタカズユキ氏が紹介する。
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面白いというのとは違う。さほど感動的とも思わない。ただ、気になる。気になるため、毎週見逃すわけにいかなくなっているのが、火曜の夜10時から放送中のNHKドラマ「サイレント・プア」だ。
「コミュニティソーシャルワーカー。制度の狭間で救われずに苦しむ孤立や貧困、その声にもならないSOSを見つけ出し、地域で支える仕組みをつくる仕事です」
ドラマは毎回、主演の深田恭子によるゆったりとした口調のナレーションから始まる。深田の演じる里美涼は、東京スカイツリーが間近に見える、「江墨区」の社会福祉協議会(社協)地域福祉課でコミュニティソーシャルワーカー(CSW)として働いている。
社協は国、都道府県、市区町村単位で組織されている社会福祉法人で、行政や保健・医療・教育など関係機関と連携し、「福祉のまちづくり」を目指したさまざまな活動を行う。長い歴史を持ち、全国をカバーする組織だが、地域ボランティアでもしていないと、知らない人のほうが多いかもしれない。
しかも、深田恭子のナレーションで説明されているCSWは、福祉の世界でもここ最近になって注目が集まりつつある、という新しい役割だ。大阪府の豊中市社会福祉協議会の活動が有名で、ドラマもそれをモデルにしたそうだが、一般的な知名度はほぼゼロだろう。
そんな地味で知られざる仕事を、よく連続ドラマの題材にしたものだ。視聴率の観点からしたら、企画書をつくる前のアイデア段階でボツだったはず。それをさすがはNHKだ。民放にはマネのできない好企画である。
ただ、ドラマの中身については、正直、微妙だ。とりあげる問題や、その現場の描写はいい。どすんとくる。かなりリアルである。
4月8日に放送された第1話は、息子を亡くした一人暮らしの老婦人が、現実を受け入れられずに、ゴミ屋敷の主になってしまっている問題。立派な栗の木のある庭付き一戸建てを埋め尽くす、ゴミ袋の山に目を見張った。
第2話は、アルコール依存症の父と寝たきりの母、そしてひきこもりの弟の住む狭いアパートに、幼い娘を連れて嫁ぎ先から戻ってきた腎不全の女性、という多重問題家族。そこまで問題が重なるものか、と驚いたが、人生の歯車が1つか2つ外れたら、こうなっちゃうのかもしれない。「人間の弱さ」がていねいに描かれていた。
ホームレス問題を扱った第3話も、名優・大地康夫が、中年男性の人生が行き詰る様を繊細に演じて、見る者を引きこんだ。第4話はレギュラーの坂井真紀が演じる民生委員の母が、孫を連れたまま徘徊で行方不明になる、という若年性認知症の問題。母役は、これまた渋い名優の左時枝。坂井、左の母子間にある緊張感がハンパなく、超高齢化社会の現実を思い知らされた。
第5話は、大学受験を2浪で失敗して以来、30年間ひきこもりを続けている元銀行マンの自治会長の息子の問題。たしかに、「ひきこもり」が騒がれてから、それだけの年月は経っている。もう若者だけの問題ではない。
5月13日放送の第6話は、日本人の夫に捨てられた、フィリピン人とその息子の滞日外国人問題。フィリピン人の母は水商売ではなく、弁当工場で超長時間労働をしている設定だ。徹夜帰りでマットレスに倒れ込む姿が、将来に増えるかもしれない「移民問題」の難しさを語る。
と、まあ、エッセンスだけ抜き出すと、ひたすら地味で暗くて重い。そうなのだが、それらの問題をリアルに見てしまうと、「これは、放っておけないでしょ」という気持ちになる。自分のまわりでも、なにかしら思い当たる節がある問題ばかりだし、「見なかったこと知らなかったことにするのは、違うでしょ」と思わされる。