長くテレビ界の中心に位置した『笑っていいとも!』の終了から1か月余り。後継番組の惨状を受けて、フジテレビのみならずテレビ界全体がいま、ポスト・タモリを熱望している。その大本命と目されるのが、SMAPの中居正広(41)。
なぜ芸人やアナウンサーといった「しゃべりのプロ」を押しのけて、本来「アイドル」であるはずの彼がテレビ界を仕切る存在になろうとしているのか。新進気鋭のテレビっ子ライター・戸部田誠氏が、新たな「テレビの王様」の実像に迫った。
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「仕切れ!」
中居正広は中嶋優一プロデューサーから出されたそのカンペの指示に愕然とした。タモリ、笑福亭鶴瓶、明石家さんま、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、爆笑問題、ナインティナインが入り乱れ同じ舞台に立った『笑っていいとも!』グランドフィナーレ(フジテレビ系、3月31日放送)で中嶋が仕切り役に指名したのは芸人ではなく「アイドル」であるSMAPの中居だった。
混乱したステージに木梨憲武が何の脈絡もなく橋田壽賀子やオスマン・サンコンを呼びこむ悪ふざけで場が荒れる中、「整理しよう!」と中居は繰り返しながら必死に仕切り役をまっとうしていった。
中居は『HEY! HEY! HEY!』(フジテレビ系、4月7日放送)で「恐くて、訳分かんないし、みんな仕切れるのに、みんな好き勝手やってるし、さんまさんあっちいるし、憲武さんそっちいるし、こっちギスギスしてるし。どこ見ればいいのか分かんないんですもん」と振り返っている。
「あれをまとめられんのは中居くんしかいない」と松本人志が言うように、あの場面を仕切ることができたのは、他のどんな芸人でもなく中居だけだっただろう。なぜ「アイドル」である中居正広が芸人やスタッフ、そして視聴者にこれほどまでの信頼を得ることができたのだろうか。
中居が香取慎吾とともに『いいとも』のレギュラーに加入したのは1994年。当時の印象をタモリは「高校生を見るようだったよ。なんにもできなくて立ってるだけだった。でも無理ないよ。『いいとも』出てるメンバーって錚々たる人たちでしょ。バラエティにバッと入れられたら分からないよ」と語っている。事実、当時まだ21歳の中居はどうすることもできなかった。弟分である5歳年下の香取とずっと肩を寄せあっていたという。
考えあぐねた中居はノートに台本のようなものを書いていた。たとえば「タモさん、元気ですか」と自分が話しかけたら「元気だよ」などとタモリが言いそうなことを想定して書き連ねた。また香取に「今日はこういうことを振るからな」と本番前に練習したりもした。だが、実際にはそんな場面はやってこない。アドリブが効かないのはもちろん、話を振ることすらできなかった。