病は気からという言葉があるが、この言葉は科学的にも証明されているそうだ。ベストセラー『がんばらない』で知られる諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、楽天的なタイプほど心臓病やがんの発症率が低いという調査結果の背景について解説する。
* * *
一度出来上がってしまった性格や行動様式はなかなか変わらない。ガツガツ自分のことだけを考える人、シニカルに冷笑する人、いつもポジティブで明るい人、仕事を始める前から悲観的な予測ばかりする人―人間にはいろいろいる。
アメリカの「サーキュレーション」誌によると、冷笑的で敵対的な態度をとるポイントが上位25%のグループは、下位25%のグループに比べてがんの死亡率が23%高く、総死亡率が16%高いことが分かった。これは約8年間にわたって追跡調査した結果のデータである。
また、楽天的な態度のポイントが上位25%のグループでは、下位25%の悲観的な人と比べて心筋梗塞などの心臓病発生率が9%低く、がんなどを含めた総死亡率は14%低かった。誰も信用しないほうが安全などと敵対的な人は、どうも長生きしない。
人生は楽天的なほうがいいのだ。職場などを見回してみると、敵対的なタイプと楽天的なタイプは必ず二種類いる。
僕たちは心を持った生き物だ。心の持ち方いかんで、健康や長生きに影響が出ることがはっきりしてきたといえる。心の在り方に影響を与えるものも分かってきた。それは脳内神経伝達物質である。
脳全体では、1000億個を超える神経細胞がひしめき合っているが、その一個一個には、約1万個のシナプス(神経細胞をつなぐ複合構造)がある。そのシナプス同士は接していて、神経伝達物質がいったりきたりしているのだ。
神経伝達物質は100種ほどあるが、今回はオキシトシンの話をしよう。無償で他人のために何かをする人の寿命が延びた論文は、おそらくオキシトシンという神経伝達物質の影響だと考えていいと思う。