「豆腐のように、売り上げを1丁(兆)、2丁(兆)と数えられるような会社にしたい」──約30年前、ソフトバンクの創業期に孫正義社長が語っていた言葉だ。それを聞いて、わずかしかいなかった社員は「この社長はおかしい」と逃げ出したという。
それが今、「売上高は6兆円」「2015年3月期は8兆円」「営業利益は1兆円」と、かつての夢が実現された。次は「時価総額で世界ベスト10、200兆円」と語る孫氏。株式の約36%を保有する中国・アリババの成長と上場により大きな富がもたらされるなど好材料もあるが、一方で足元では混乱も起きている。孫氏の次なる夢を実現するために現場は奮闘するが、まだまだ多くの課題も残っている。
「NTTは118年。トヨタは65年。ソフトバンクは33年。創業から営業利益1兆円を達成するまでの期間です。これは史上最速です」
ソフトバンクの孫正義社長は5月7日の決算発表会見の冒頭、誇らしげに語った。
2014年3月期の営業利益は前期比35.8%増の1兆853億円。売上高は同108.2%増の6兆6666億円。純利益は5270億円。いずれもライバルのNTTドコモとKDDIを上回った。
それらの数字と並んで市場の注目を集めているのが、中国でネット通販「淘宝網」などを運営するアリババの存在だ。ソフトバンクが株式の約36%を保有している同社はアメリカでの上場が予定されている。史上最大規模の上場とされ、時価総額は慎重に見ても10兆円、高ければ20兆円になると見られている。その3割強だから、ソフトバンクが持つアリババ株の価値はざっと4兆~6兆円にもなる。
アリババの創業者であり現会長の馬雲(ジャック・マー)氏に孫氏が初めて会ったのは2000年。約20社の新興IT企業経営者との面談だった。持ち時間は1社10分。創業間もないアリババは売り上げがほぼゼロで赤字の会社だったのに、孫氏は5分ほど話しただけで投資を即断即決する。孫氏によれば、こんなやりとりがあったという。
馬:「1億か2億円でいいです」
孫:「そう言うな、20億円は受け取ってほしい。お金は邪魔にならないだろう」
──事業計画書を見たわけでもなく、「動物的に〝匂い〟を感じた」「目つきで決めた」(孫氏)。
14年前に投資した20億円が今、5兆円前後に化けたわけだ。それだけに孫氏を「アジアのウォーレン・バフェット」と評する声もある。