4月にオバマ大統領が来日した際の共同記者会見で、大統領が「日本の施政下にある領土、尖閣諸島も含めて日米安全保障条約の第5条の適用対象となる」と発言したことを、新聞・テレビは大々的に報じた。特に親米保守派は歓迎ムード一色だった。だが、「日米安保の適用範囲」というのは米軍がそれを軍事力で守ると約束したことにはならないという点には注意が必要だ。
オバマ大統領の言動で注意を払うべきは他にある。
たとえば来日時に明治神宮を参拝したことだ。本誌前号で報じた通り、米側から「明治神宮に行きたい」と打診してきた真意は「我々は靖国神社には決して行かない」というメッセージである。しかも、2002年にブッシュ大統領が参拝した際には小泉純一郎首相が同行したが、今回、安倍首相は同行できなかった。
毎日新聞4月29日付によれば、米国側が難色を示したという。安倍首相が昨年末に靖国参拝したことに異例の「失望」コメントを発表したオバマ政権が、あらためて靖国参拝を認めないことを表明したとみていい。
そして続く訪韓では朴槿恵大統領との共同記者会見で慰安婦問題に言及し、「甚だしい人権侵害」と言ってのけた。
終戦直後、日本に上陸したアメリカを中心とする連合国軍が慰安所の開設を要求した(*注1)ことには頬被りしてのその発言は、とても「同盟国」とは言えないものだ。「日米同盟は力強く復活をいたしました」という安倍首相の誇らしげな発言とは裏腹に、オバマ政権と安倍政権の関係は冷え切っている。日本よりはるかに外交巧者の中国がアメリカの意図を読み違えるはずはない。ジャーナリストの富坂聰氏は指摘する。
「『日本固有の問題で巻き込まれるのは嫌だ』というアメリカの本音を中国はよく理解している。南シナ海での自由航行権が侵されるなど直接的にアメリカの国益が損なわれない限り、アジアで米軍が動くことはないと見抜いている。
習近平をはじめとする共産党中央や軍の上層部は、中国の国力がしばらく上向いていく一方、アメリカの国力はこれから徐々に下向くため、今は時間稼ぎするつもりだろう。