さて本書で特筆すべきが各章末の人物相関図。第1章では計8名だった相関図が、第2章では近所に住むエステ経営者の私ら13名、最終章では17名と章を追う毎に増殖し、各々の関係性や正体もびっしり書き込まれる斬新な趣向だ。

「第2章の私は第1章の私のママ友で、第3章は29歳で売れないアイドルを続けるその妹、第4章はその顔見知りの女スリと、5人の女が各々の視点でスマドロを語りますが、人数は増えてるようで増えてないんです。例えば第1章の女の初恋の陰で別の誰かが酷い目に遭っていたり、ある人には見えることが、ある人には見えていないだけです」

 興味の対象は今、もしくは自分の経験した過去だと、アムラー世代の彼女は言う。〈辞書は開く物ではなくルーズソックスの中に入れて振り回す物〉等々、自身の流行遍歴を映した小ネタで読者の心をつかんだかと思うと、一見陳腐で猥雑な現象にドキッとするような洞察力が隣り合う。迷えるアイドルのブログにあるファンが寄せた助言は、果たして励ましか、皮肉か。

〈人って真実よりも、作り上げられたものに美しさを感じると思います。虚像、想像、幻像の三点セットです!〉〈世間が求めているものは何なのか〉〈自ずと答えは出てくるはずです〉

「実はこれ、『嘘・大げさ・紛らわしい』っていうJARO(日本広告審査機構)のCMからヒントを得たんですけど、この3点セットが世の中を動かしているのは確かだし、最近は情報が多すぎて逆に本当のことがわからなくなっている気がする。人間が嘘や幻に惹かれるからこそ作曲家のゴーストライターなどの事件も起き、周りが勝手に虚像を作っていく怖さが現代にはあると思います」

 事件を日替わりで消費し、スマドロすらいつ〈懐かしい〉と言われてもおかしくない時代に悠木氏は一連の騒動を置く。そもそ5人の誰1人としてスマドロの正体を断言した者はなく、そうした危うさの陰で取りこぼされた“本当のこと”を、見事女たちのお喋りのうちに隠しきった筆力には空恐ろしさを禁じえない。

「私自身はお喋りというか、結構背筋が凍るような毒舌を平気で吐くらしいです。昔は自分をナンパした相手に『あなた、イケてないですよ』と世直し的に言ったりして、いつ刺されるか冷や冷やしたってよく友達にも心配されました(笑い)。でも私は“空気は読めるけど、あえて読まないKY”がカッコいいと思っているし、そういう性格が作品にも出ちゃうのかもしれません」

 つくづく今後が楽しみな、クールで美しい新星の誕生である。

【著者プロフィール】悠木シュン(ゆうき・しゅん):1980年生まれ。広告代理店、デザイン事務所、印刷会社勤務を経て、2013年「スマートクロニクル」で第35回小説推理新人賞を受賞。162cm、AB型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2014年6月27日号

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