ブラック企業批判がおさまらないなか、安倍晋三政権が打ち出した残業代ゼロ制度が物議をかもしている。残業代ゼロの導入は無意味な戦略だと断じる大前研一氏が、なぜ意味がないかについて解説する。
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安倍晋三政権は新たな成長戦略の一つとして「残業代ゼロ」を導入する方針を打ち出した。最低でも年収1000万円以上の専門職は労働時間規制の適用外にして、時間ではなく「成果」で評価する働き方──いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入するもので、2015年の通常国会に労働基準法の改正案を提出し、2016年春の施行を目指すという。
しかし、これは日本の労働の本質的な問題点を全くわかっていないお粗末で無意味な戦略である。
今回の残業代ゼロの言い出しっぺの1人とされる産業競争力会議の民間議員の長谷川閑史(やすちか)・武田薬品工業社長は、その対象者の具体例として金融機関のファンドマネージャーやコンサルタントなどの専門職、経営企画やブランド戦略などを担当する企業の管理職候補を挙げたと報じられている。
だが、もともとそうしたクリエイティブな「非定型業務」をしている人たちの大半は残業代をもらっていないはずであり、その割合は社内の数%にすぎないと思う。今さら政府がわざわざ法律を改正して取り組むようなことではないだろう。
逆に言えば、それ以外の「定型業務」をしている大部分のホワイトカラーは、実は本当のホワイトカラーではなく“ブルーカラー的ホワイトカラー”なのだ。
今の日本のホワイトカラーとブルーカラーの定義は、戦後にアメリカから輸入したもので、それはもはや時代遅れになっている。「総合職」や「一般職」といった区別はあるが、事務系の仕事をしている人はおおむねホワイトカラーと呼んでいる。
しかし、その中の経理処理や売掛金回収といった定型業務は、基本的に(工場労働者と同じで)働いた時間に比例して仕事の進捗度が決まるブルーカラー的な要素が大きいので、ホワイトカラーと呼ぶのはおかしい。したがって、彼らに残業代がつくのは当たり前である。