大手牛丼チェーン「すき家」の店舗で、過酷な業務内容からアルバイトが逃げ出し、120店以上が臨時休業に追い込まれたのは記憶に新しい。同社に限らず、いまや「時給1200円超で求人を出しても人が来ない」(都内の中華料理店)ほど、人手不足が深刻な時代。
求人情報会社リクルートジョブズが6月20日に発表したパート・アルバイトの時給調査でも、三大都市圏(首都圏・東海・関西)の5月の平均募集時給は11か月連続で前年同月比プラスの954円。首都圏だけみると990円と高い水準になっている。
だが、毎年、都道府県ごとに改定され、守らないと会社に罰金も科される労働者の最低賃金は、実際の労働市場とは驚くほど乖離している。2013年度の全国平均は764円。最も高い東京都でも869円となっている。
ここまで開きが出てしまうのはなぜか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
「最低賃金は本来、市場の実勢価値に基づいて上げていくべきですが、飲食業や建設業のように景気のいい業種ばかりではありません。また、外国人など安い労働力に頼ってギリギリ採算ラインを維持している中小事業にとっては、最低賃金をむやみに上げられると死活問題にも発展するのです」
今年も10月ごろの適用を前に、厚労省を中心とした審議会が引き上げ幅の議論を始めている。いまのところ、「15円以上アップさせて全国平均で780円台にできるかが焦点」(全国紙記者)の情勢だが、10円、20円程度の引き上げでは物足りないとする声も根強い。
「消費増税で家計の負担も増している中、安倍政権がいうように賃上げで経済の底上げを図るなら、最低賃金は少なくても高卒初任給レベルを時給換算した1000円前後まで上げる覚悟があってもいい」(溝上氏)
前述したように、すでに企業側の採用コストは最低賃金など関係なく膨れ上がっている。「飲食業のアルバイトでも競合店どうしで時給10円刻みの人材争奪戦が繰り広げられていたり、製造業では面接時にクオカード、採用されたら祝い金などをばら撒いたりすることもある」(人材紹介会社スタッフ)というから、非正社員の確保がいかに企業の悩みのタネになっているかがうかがえる。
しかし、「いたずらに時給を上げたからといって雇用が安定するとは限らない」と話すのは、特定社会保険労務士の稲毛由佳さんだ。
「労働者に占める非正社員の割合が2割から4割に増えたいま、アルバイトも“時限措置”の時代は終わりました。正社員になりたくてもなれなかった人や、家庭と仕事の両立を目指す主婦など、長く安定的に働きたいという人が増えているのです。
正社員とアルバイトの線引きが曖昧になる中、勤続年数やスキルアップによる昇格・昇給制度がなかったり、時間外の無理な残業を強いたりするような企業は、いくら採用時の時給が1000円以上でもすぐに逃げられてしまうでしょう」(稲毛さん)