岩盤規制に穴をあける──。発足以来スローガンとして掲げてきた規制改革に安倍晋三政権がようやく前進しはじめた。混合診療の拡大、農協の組織改革、法人実効税率の引き下げなどが盛り込まれた成長戦略が6月24日に閣議決定された。国際情報誌・SAPIOの連載をまとめた『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館刊)をこのたび上梓した政策工房社長・原英史氏と、東京新聞論説副主幹で規制改革会議委員の長谷川幸洋氏が改革の進め方について語り合った。
──アベノミクスの最大の目玉、新成長戦略が発表された。産業競争力会議(*注1)などで同戦略の立案にかかわった原さんは、どう見るか。
【*注1】安倍総理ら閣僚7人と新浪剛史・ローソン会長ら企業経営者ら10人で構成。
原:基本的に評価しています。過去の成長戦略といえば、国が「この分野が伸びる」と方向性を指し示し、そこに役人たちが予算をつけながら議論を誘導していく手法をとっていた。これは“ターゲティングポリシー”と呼ばれる霞が関の伝統的手法でした。役人、さらに政治家はビジネスの現場に知悉していないから、どの分野が将来伸びるかなんてわからない。結局、税金の無駄遣いにつながってしまう。
それに対して今回の成長戦略では、民間の経営者らが中心となって議論が進められました。どこが伸びるというよりも、いかに自由にビジネスを展開する環境を整えられるかが主な議題でした。つまり、日本経済の成長を阻害する「岩盤規制」の突破です。今回の成長戦略ではそのいくつかに手を付けました。
長谷川:規制改革会議(*注2)としても、とりわけ岩盤が厚い農業、医療、労働・雇用について、6月13日に第二次答申を安倍総理に手渡した。実は私、会議の最後に「これが政府の方針として固められる前に、答申が骨抜きにされる懸念はないか」と事務局の官僚に何度も確認したんです。すると、ペーパーがそのまま成長戦略に書かれます、との返答だった。
【*注2】規制改革を検討し、総理に意見を述べる審議会。村山富市政権下で設立された「行政改革委員会規制緩和小委員会」が先駆け。民主党政権下で廃止されたが、第二次安倍内閣で復活。
原:一般的な有識者会議では、答申を出しても、そのまま政府方針になるとは限りません。ここが違ったわけですね。