【書評】『ファストファッション クローゼットの中の憂鬱』 エリザベス・L・クライン著 鈴木素子訳/春秋社/本体2200円+税
Elizabeth L. Cline(エリザベス・L・クライン):ニューヨーク在住の作家・編集者。シラキュース大学卒業(政治哲学)。雑誌The Nation、New York、The New Republic、GOOD、週刊タブロイド紙The Village Voice、ニュース専門ウェブサイトなどで執筆。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
あるとき著者は家の中にある自分の服をすべて引っ張り出した。数えてみると354点もあり、多くが格安のファストファッションだった。その服の山を見て憂鬱な気分になったという。服への愛着も、自分と服との関係性もまったく感じられなかったからだ。
Zara、H&M、Forever21、ユニクロ……。今やファストファッション市場は世界で1兆ドル規模にまで膨張した。本書は、アメリカ人女性ジャーナリストがその裏側を取材し、問題点を考察したルポルタージュである。
大きな問題のひとつは環境への負荷だ。ファストファッションは低価格ゆえに、買っては捨て、を繰り返すことに消費者の抵抗は小さい。企業側も、消費欲を刺激するために短いサイクルで新商品を展開する。その結果、クローゼットの中は不要な服で溢れる。
それらがリサイクルされ、貧しい人々に届けられるというのは幻想に過ぎないという。 ファストファッションに多いプラスチックを含む混紡はリサイクル不可能だし、もはや貧困層も低品質で流行遅れの服を手に取りたがらないからだ。そのため、実際には埋め立て廃棄処分になるものが多い。そもそも膨大な生産自体が環境に大きな負荷をかける。
生産工場のある途上国の労働環境も劣悪なことが多い。ぎりぎりその日暮らしの生活を送れる「最低賃金」は支払われるが、将来に向けての生活設計を可能にする「生活賃金」が支払われることは少ないからだ。また、昔の服に比べるとデザインや縫製がシンプルでいいので、腕のいい職人が職を奪われ、技術の継承が行なわれにくい、といったマイナス面もある。