ハマる人はこれ以上なくハマるタイプの作品なのかもしれない。心の闇を捉えた不気味な群像劇。この夏話題のドラマ「家族狩り」をコラムニストのオバタカズユキ氏が評す。
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原作は累計130万部に迫る天童荒太の代表作。そのあまりに衝撃的な内容から映像化は不可能といわれてきたベストセラーが、構想7年の時を経ていよいよ「金ドラ」に――。
この夏のTBSの問題作、という触れ込みで始まった連続ドラマ『家族狩り』(金曜22時~)が異彩を放っている。私は第1話で「なんなんだ、この緊張感ぴりぴりの突き刺さってくる映像は!」と驚愕し、第2話を見て、「これは出演者とスタッフのとてつもない集中力が生み出した快作だ。演出から美術、音楽までぜんぶホンモノだ」と確信した。
全10回放送予定の走り始めだけを見て断定するのは早計かもしれないが、民放でこれほど誰かに薦めたくなるドラマはめったにない。まだご覧になっていない方は、ぜひともこの機会を逃さないでほしい。
ただし、である。個人的には絶賛モードだが、断り書きをつけておくと、『家族狩り』はみんながみんな楽しめるドラマでもないようだ。それが証拠にというか、7月4日放送の第1話の視聴率は10.5%と2ケタに乗ったものの、翌週の第2話は6.9%にガタ落ちした(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。
第1話の放送後、興奮覚めやらぬ私はネット上に湧いてくる『家族狩り』の感想を見まくっていたのだが、そこで一番目についた形容詞は「怖い」だった。次に多かったのは「暗い」や「重たい」。「グロい」という言葉もあちこちで使われていた。そして、そうした感想と一緒に、「次はないな」「私にはムリ」「離脱しましたー」といった声が飛び交っていた。
もちろん、「面白い!」「マジ泣けた」「松雪泰子ちょーきれい」などのポジティブな声も多数見かけた。が、トータルの印象としては「怖い」をはじめとするネガティブ反応のほうが目立っており、同じ時間に同じものを見てこうまで感じ方の異なる人が大勢いたものか、と戸惑いを覚えた。
とりわけ「グロい」という感覚は自分の中にまるでなかったから、意味がすぐには分からなかった。たしかに『家族狩り』は、第1話の冒頭から血が流れる。椅子に手足を縛りつけられ、猿ぐつわをかまされた中年夫妻が、暗闇の中で何者かに包丁で斬りつけられるシーンがオープニングだ。しかし、このドラマはそのような凄惨な場面を必要最小限に抑えている。一家心中を装った殺人事件が連続発生する話のわりには、直接的なバイオレンス表現は意外に少ない。
なのになぜ、「グロい」と感じる人が多いのか。それはおそらく、血がどうの、死体がどうの、ということではなく、登場人物たちが抱えている心の闇がそれぞれリアルに表現されているからだろう。
主役の児童心理司を演じる松雪泰子は、なぜか過剰なほど仕事にのめりこんでいる。焦燥と怒りと虚無の間をめまぐるしく行き来し、素顔がどこにあるのか分からない。アルツハイマー病の父をどれだけ思いやっているのか、その本心も見えてこない。
準主役の警視庁捜査一課警部補を演じる遠藤憲一も、辣腕のようだが、協調性のない刑事だ。息子を亡くしたショックで精神疾患にかかった妻ともまるでコミュニケーションがとれない。それは妻の病気のせいというよりも、心を他人に開けない夫の側の問題のように思われる。