長谷川:役人の言うことは、実態を見て考えれば、怪しいとすぐ分かる。社会福祉法人をめぐる議論でも、株式会社が保育所を運営するのはダメだ、利益優先になると言いますが、実は社会福祉法人の中には保育所や福祉施設を事実上、私物化して営利目的になっているところも多い。
原:株式会社は営利目的だからサービスをないがしろにするというなら、一流ホテルはどうなのか。民間企業はサービスが悪ければ淘汰されるので、結果的にサービス向上に熱心になるはずです。対して社会福祉法人は、たとえば法人税免除といった特権が与えられていて、淘汰されにくい。社会福祉法人は役人の格好の天下り先で、この両者が結託して株式会社を排除してきました。そのおかげで、待機児童問題はいっこうに解決しません。
長谷川:今年1月に施行された改正タクシー事業適正化・活性化特別措置法などは、役人の手で法律以上に規制が強化されている典型ですね。
簡単にいえば役所が運賃の上限と下限を決め、従わないと運賃変更命令や車両の使用停止処分を出す。場合によっては事業許可を取り消すという内容です。企業努力で運賃を引き下げようにも、「役所がうんといわないから引き下げられない」というわけ。
これは全国でいっせいに適用されるわけではない、というのが国交省の言い分です。まずは、運転手の賃金水準や車両の稼働効率などを判断しながら、供給過剰の「特定地域」を指定。そこで初めて同法の適用が検討されることになっています。
ところが、役人の審査基準にあてはめると全国の6割以上、実は8割位じゃないかと思っていますが、大都市のほぼすべて指定されてしまう。しかもこれほど強いペナルティを科すにもかかわらず、運用の元になっているのは“局長通達”という、法律、政令、省令のさらに下の規定に過ぎない。国土交通省の裁量ですべて決められてしまう。
原:本当におかしなことですが、日本の場合、法律に書いてなくて、細かいことは省令や通達で自由に決められるようにしてある。法律に細かいことを書かないのは、役人の条文作りのテクニックのひとつ。こうした余地を残すから、国民の目の届かないところで規制が強化されていく。
また、さきほどの社会福祉法人の問題にしてもそうですが、根本を見直したらもっとすっきりとした制度にできるのに、元の制度を維持したまま横に変なプレハブを建てていくから複雑になっていくことが多い。
長谷川:それは集団的自衛権の話も実は一緒ですよ。
原:もはや一般の人がついていけず、政治家もマスコミもわからない。それで、詳しいことは役人に聞いてください、となるわけです。
※SAPIO2014年8月号