ニューヨーク・ヤンキースの田中将大が故障者リスト入りしたが、田中の故障を、日本での投げすぎに求める声が米国では根強い。PAP(pitcher abuse point ※詳細は後述)という米国の野球専門のシンクタンク「Baseball Prospectus」が考案した指標、いわば「投手酷使指数」でみると、今季の田中はまったく問題ない数字でありながら楽天に所属していた昨季の数字は平均的なMLBの投手の5年分に相当しているのだ。
この論調に真っ向から異を唱えたメジャーリーガーがいる。ダルビッシュ有(レンジャーズ)だ。球宴前の記者会見で田中の故障に関して、
「球数は関係ない。140球を投げても、中5~6日あれば肘の炎症は回復する。故障の原因は主に、米国球界の登板間隔にある。(中4日は)絶対に短すぎる」
と持論を展開したのだ。この発言はPAP、すなわち球数にこだわる米球界の常識に一石を投じた。
PAPでは、先発投手が1試合で投げた球数から100を引き、その数を3乗した数を算出(例えば110球なら、10の3乗で1000ポイント、140球なら40の3乗で6万4000ポイント)する。これを毎試合累計して、シーズン通算で10万ポイントを超えると故障の可能性が高まり、20万以上で「いつ故障してもおかしくない水準」と見なされる。
確かにPAPでは説明のつかない要素も多い。例えば100球を超えない登板のポイントがゼロになること。極端にいえば、100球以内の球数なら何連投しても、故障のリスクはないことになってしまう。
ポイントの多寡と故障の確率も必ずしも一致しているわけではない。プロ野球のデータに詳しいライターの広尾晃氏も、「一定の基準にはなるが、個人差が大きいため判断が難しい指標」と語る。
「日本のかつての大投手の記録を掘り返すと、阪神のエース・江夏豊は、401三振を奪った1968年シーズンの数値が201万1647に達しています。理屈通りならその後数年で壊れていなければおかしいのですが、周知の通り江夏は頑丈な投手で、先発から抑え時代も含めた実働18年間、大きなケガもなく、ほぼ毎年50試合近くに登板しました」(広尾氏)