立ち回りが上手な俳優が少なくなったと言われているなか、松方弘樹は素早く華麗な殺陣で知られている。約50年前、片岡知恵蔵や中村錦之助、大川橋蔵といった時代劇スターたちを見て学んだことについて、松方が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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1960年代初頭、松方弘樹は東映京都撮影所で時代劇に出演するようになる。そこには片岡千恵蔵、市川右太衛門、大友柳太朗、中村錦之助、大川橋蔵、そして父・近衛十四郎と、綺羅星の如き時代劇スターがいた。
「父親から教えてもらったことは何もないです。勝手に覚えろ、と。ただ『俺は芝居はあまり上手くないけど、立ち回りは日本一だから、それは見に来た方がいいぞ』と言ってくれました。
月に15本も撮影が入っていましたから、先輩の芝居を見に行くのはたすかったんです。撮影が早く終わった時は、セットを何杯も見て回りました。今の役者は自分のロールが終わったらとっとと帰りますが、そんなことは絶対になかった。
大好きだったのは、錦兄ィ(錦之助)の芝居ですね。若い頃の僕の芝居を見たらほとんど錦兄ィのマネをしています。『中村錦之助』の時の錦兄ィはセリフの切れも動きも天下一品ですよ。
『萬屋』になってからは、ちょっと難しかったですね。芝居が上手いから、それを受けてくれる役者がいないとダメなんですよ。それで『柳生一族の陰謀』の時に錦兄ィには『もうちょっとレベルを落として』と言っていました。他の人と芝居の差がありすぎてしまって、浮いてしまうんです。
凄く出来るから、やりすぎちゃうんですよ。そうすると、例えば相手役の成田三樹夫さんも素晴らしい役者でしたが、現代劇出身だからどうしてもバランスが悪くなってしまうんです」