現代は「ホームドラマ」が描きにくい時代なのだろうか。ドラマ「おやじの背中」から、コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。
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やっぱりアタリだった。これはサイコホラーの傑作だ。
以前、ここのコラムで取り上げたTBSの金ドラ『家族狩り』が絶好調である。視聴率は低迷したままだが、番組のテンションがずっと高い。
家庭内暴力やストーキングなどをキレイ事抜きで描いているので、「考えさせられる……」という感想も多い。が、そんなに身構えないで、とりあえず上質なエンターテインメントとして楽しめばいいんじゃないだろうか。演技、演出、美術、音響、編集などなど、制作メンバー全員の本気度が類稀なる映像パワーを生み出している。ハラハラドキドキで怖い。だからクセになる。
そんな『家族狩り』に対して、同じTBSで同じ時期に同じ「家族」モノとして『おやじの背中』が始まった。私はこちらも期待して見続けている。けれども、残念ながら、ハズレの回が続いているように思える。
『おやじの背中』の番組枠は、半世紀以上の伝統がある日曜劇場だ。そこで「10人の脚本家と10組の名優が贈る、10の物語。」というキャッチコピーを掲げ、とにかく豪華な名前を並べた1話完結型のホームドラマを毎週放送している。私は第4話を観終わった段階でこれを書いているが、ここまでの脚本家(代表作)と主演の組み合わせは次の通り。
・第1話……脚本:岡田惠和(『ビーチボーイズ』『ちゅらさん』など) 主演:田村正和&松たか子
・第2話……脚本:坂元裕二(『東京ラブストーリー』『Mother』など) 主演:役所広司&満島ひかり
・第3話……脚本:倉本聰(『前略おふくろ様』『北の国から』など) 主演:西田敏行
・第4話……脚本:鎌田敏夫(『金曜の妻たちへ』『男女7人夏物語』など) 主演:渡瀬恒彦&中村勘九郎
連続ドラマならば不思議でもないが、1時間の単発ドラマで毎回これだけのビッグネームが登場するのは異例だ。第3話はおやじ役の西田敏行だけでなく、彼を取り巻く脇役たちも、妻役が由紀さおり、同級生役が大杉漣と小林稔侍、加えてナレーション役が徳光和夫と異常なほどゴージャスだった。
名前がある役者は、みな相応の演技力もある。おやじ役は4人とも「名優」と呼ばれるだけの存在感を放っていた。また、田村正和や役所広司という癖の強いおやじたちを相手に、娘役の松たか子と満島ひかりもそれぞれ負けていなかった。渡瀬恒彦の息子をやった中村勘九郎の芝居は端的に言って大根だったが、その妻役のともさかりえは感情表現がたくみで良かった。俳優陣は、トータル、悪くはない。
では、何が『おやじの背中』をハズレ続きにしているのか。それは脚本だと思う。このシリーズはすべてオリジナル脚本なのだが、これまで見たものは4話とも「おやじの背中の魅力」が分からなかった。おやじたちの設定が特殊すぎて、共感のしようがないのだ。
第1話は東京郊外のアンティークな一軒家で静かに暮らす父娘の物語。妻(母)を交通事故で亡くして以来、パニック障害を患っている娘は、妻の代わりとして家事を担当している。そしてこの父娘はまるで新婚夫婦のように互いを「圭さん」「瞳子(ひとみこ)さん」と呼び合ってきた。という設定からして私には「気持ち悪いメルヘンの世界」としか映らなかった……。
第2話も父と娘の物語だが、こちらはヤンキーモード全開。元プロボクサーの父が娘の五輪出場を夢見て、幼少時からボクシング一色の生活をさせてきた。娘には才能がない。27歳で引退を決意して結婚することに。ところが、式の前日に父親が娘を焚きつけ、結婚は取止めで、またボクシング生活に舞い戻る……って、アニマル浜口父娘をデフォルメしてどうするんだ。