大手牛丼チェーン3社が変革期を迎えている。それぞれの経営戦略の向こうに「明日の牛丼」は見えるのか!? 食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が紹介する。
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いま、牛丼業界がかつてない大変革期に突入している。その象徴的なできごとが、いま話題の松屋の「プレミアム牛めし」の発売だ。牛丼各チェーンは消費者から「味の吉野家、種類の松屋、価格のすき家」というイメージを持たれてきた。消費者を対象にした過去の調査も、そうした各チェーンの傾向に沿った結果が出ていたし、各チェーンのトップもそのイメージに重なる経営思想を持っていた。
ところが今年、各チェーンの目指す行き先と世間のイメージとに齟齬が生じ始めた。
この7月「松屋」が「牛丼の味」にこだわるという、まるで吉野家のような「プレミアム」戦略に舵を切った。もともと松屋は牛めしのほか、カレーから焼肉定食まで幅広い商品群が売り物だった。ところが7月に使用する牛肉を冷凍肉からチルド肉に切り替えた「プレミアム牛めし」を発売。「究極の牛めし」「社運をかける」という緑川源治社長は意気込んだ。ちなみに現場のスタッフからは「確かに好評だけど、きちんと作ると牛めしだけでこれまでの何倍も手がかかる。正直、現場の負担は増えるばかり」との声も聞こえてくる。
吉野家は今年4月、味の改善を狙って、牛肉のカット厚を1.3mmから1.2mmに変え、牛肉の解凍──「熟成」方法を変えた。もっとも吉野家が目指したのは、いつの時代も「味」だった。1970年代の「ここは吉野家、味の吉野家、牛丼一筋80年♪」というCMソングもあったように、常に「味」を念頭に置いた経営戦略を立ててきた。
それゆえ、BSE騒動で米国牛の輸入禁止措置が取られた当時も、3年近く牛丼をメニューから外した。今月末で吉野家の社長を退任する安部修仁社長が「他の産地の牛肉を使っても牛丼という商品は出せる。でも、それだと吉野家の味は出せない」と米国産牛の「味」にこだわったからだ。吉野家は、いつの時代も「味の吉野家」を目指してきた。