俳優・松方弘樹が、実父であり、1970年代初頭まで時代劇で活躍した俳優、近衛十四郎について語った。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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松方弘樹の父・近衛十四郎は熱心な時代劇ファンたちから「日本一のチャンバラ役者」と現在もなお讃えられ続けている。若手時代、松方は『柳生武芸帳』シリーズなどの近衛主演の東映時代劇で数多く共演してきた。
「父親は立ち回りは一回で覚えるんですよ。僕が十回も二十回もやっている間、『ワシは疲れるから、やらんぞ』と椅子に座っているだけでね。
それで本テス(本番前最後のテスト)になると、『一、二、三、四手は早く行くぞ。四手と五手目で間を入れるぞ。六、七、八、九、十、十一、十二は早いぞ。十二と十三は間があるぞ』って言いながら二十手ぐらいの手を一回で覚えるんですよね。僕も覚えるのは早い方ですが、何で覚えられるのってくらい父親は早かったですね」
近衛は刀を斬り上げる時に右手を返す型が特徴的だが、それは松方も受け継いでいる。
「その方がただ斬るだけよりイイんですよ。斬った後で手首を返す方が、刀の先が動きますからね。刀っていうのは手首に力が入ったら先が動かないんです。今の俳優さんは手首が硬いまま刀を振りまわしている。そうすると、刀は走りません。ゴルフも手に力を入れたら飛ばないでしょう。それと同じですよ。
立ち回りは自分でかなり研究しました。たとえば、(大川)橋蔵さんは斬る時に内股になる。その方が袴を穿いていない着流しでの立ち回りの時に綺麗なんですよ。裾が乱れないんです。
そういうのは見ていれば分かることですが、基礎がなかったら見ても分かりませんよ」
松方弘樹は七十歳を超えた今でも、時代劇の立ち回りで見事な刀さばきをみせている。それは、若手時代に東映京都撮影所で鍛え抜かれたのが大きい。