クラフトビール市場が拡大している。クラフト(=手作り)ビールとは小規模なビール醸造所で造られるビールのこと。国内外のクラフトビールを提供するビアパブが都市部を中心に増加し、「クラフト・ロック・フェスティバル2014」(東京・晴海/今月16日)などクラフトビールを楽しむイベントも全国で相次いで開催されている。ビール離れが進む中、なぜクラフトビールが存在感を増しつつあるのか。
日本における小規模生産ビールの歴史は1994年にまでさかのぼる。この年に酒税法が改正され、最低製造数量が2000キロリットルから60キロリットルにまで緩和された。これを契機に、全国にビール製造会社が続々と誕生。「地ビール」ブームが起きたのである。しかしこのブームは地域の町おこしと結びついたために、主目的が町おこし、品質は二の次になることもあった。また、醸造技術が未熟で高い品質を維持できない、価格が高いなどの理由もあいまって、次第に下火になっていったのである。
だが、日本のビール職人たちの情熱の火が消えたわけではなかった。ブームによって淘汰された後も、熱心な職人たちは醸造技術の研究と品質向上に努め、じわりじわりと売り上げを伸ばしていったのである。こうしたビールは、地域の町おこしを担っていた地ビールに対して、品質を重視する職人の手によって丹精込めて造られる点に着目し、クラフトビールと呼ばれるようになっていった。
ブームにはいつも、ターニングポイントがある。クラフトビールにとってのそれは「クラフトビアマーケット」の登場だったと、『フードスタジアム』編集長の佐藤こうぞう氏は語る。「クラフトビアマーケット」とは、30種類の国産を中心とした樽生クラフトビールを480円均一で提供し、本格料理も楽しめるビアバーだ。東京・虎の門ほか4店舗を展開する。
「それ以前にもクラフトビールファンはいたのですが、マニアの色合いが強かったんです。一つには価格が高かったから。もう一つには、一時のベルギービールブームのように、海外のビールが中心だったからです。それが『クラフトビアマーケット』の登場によって、クラフトビールってこんなに安く、気軽に飲めるものなんだと、そして日本にもこんなに美味しいクラフトビールがあるんだと、多くの人が気づいたんですね。高い、マニアックという印象が一新されて、クラフトビールの概念が変わりました」(佐藤氏)
いまやクラフトビールは、これまで大手メーカーのビールをあまり飲まなかった若者や女性にも人気だという。佐藤氏はクラフトビールの人気について「『とりあえずビール』として飲まれてきた大手メーカーのビールが“のどごし”を楽しむのに対して、クラフトビールは“味の違いを楽しむ”もの。これまでのビールにはない味わい方が受けているのだと考えられます。ワインや日本酒の楽しみに方に近いですね。自分はどこのビールが好きだとか、作り手のこだわりがどうだとか、クラフトビールには薀蓄を語り合うネタも豊富にあります」と分析する。