球速はおよそ50キロちょっとという。南北海道代表・東海大四のエース西嶋亮太投手のスローカーブは話題を呼んだ。あの球の「意味」を、フリーライターの神田憲行氏が取材した。
「とくに西嶋になにもアドバイスしていません。話題になったときに本人に『お前なんか気にしてるか』と聞いたら、『いいえ』って言ってましたから」
大脇英徳監督も「いろいろ言われて気にするタイプなら、最初からあんな球投げてませんよ」と笑う。
雑音をシャットアウトできたのは、超スローカーブが相手を侮辱した球ではないことを、なにより本人が知っていたからだ。西嶋投手がこの球を練習し始めたのは昨秋から。
「球種が少なくてピッチングが単調になりがちだったので、緩急をつけるために最初は遊びで投げてみたんです。それが意外といけるんじゃないかと思い、ちゃんと投げられるようになるまで毎日1時間くらい練習しました。僕が持っている球種の中でいちばん、投げるのが難しい球です」
たしかにあの球をよく見てみればわかるが、投げられた球は高く弧を描いたあと座った捕手の元に正確に落ちている。たんなる思いつきだけで投げられるわけがない。ましてや相手を侮辱するために毎日1時間も練習するわけがない。ちなみにメディアによっては「超スローボール」と形容するが、「いえ、カーブの握りで(カーブを投げるときのように)抜いて投げているので、超スローカーブです」と訂正するところからも、この球に賭ける本人の誇りが感じられる。身長168センチ、体重59キロしかない小柄な投手が智恵と工夫と努力で、磨きに磨いてきた一球なのだ。
ライトを守る高田渉主将は、外野からもよくわかるぐらい高く上がる超スローカーブが出ると、
「ああ、あいつ今日もテンポ良く投げているんだなあとわかります」
と笑みを漏らした。
それにしても私にはわからない点がひとつある。西嶋投手はコントロールは確かに非凡なものがあるが、ストレートの球速は通常で130キロ台中盤、スライダー、スローカーブ、チェンジアップも失礼ながら目を見張るほどのキレがあるわけでもない。前述したように身体も小さいから威圧感があるわけでもない。それが延長戦を含む2試合19イニングで自責点1、奪三振20という素晴らしい記録をなぜ残せたのか。