夏の甲子園が大詰めを迎えている。今年は開幕が台風のため2日順延され、大会序盤は涼しかったこともあって、選手の体調問題があまりクローズされていない。しかし投手の肩と肘に負担がかかることは変わらない。2人の投手のケースから、この問題を考えたい。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
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「肘が良ければもっとやれたんじゃないかと思う。(今日投げた)あの程度のボールなら簡単に打たれる。自分のピッチングができなかったのが悔しいです」
そう言い残して甲子園を去ったのは、盛岡大付の松本裕樹投手だ。松本投手は大会前に「最速150キロ右腕」「プロ注目」と騒がれたが、甲子園ではそのスピードを披露することはできなかった。初戦の東海大相模は変化球を丁寧に低めに集める「打たせて取る」投球で退けたものの、次戦の敦賀気比には3回途中までで10安打を浴び、自責点5でマウンドを降りなければならなかった。
理由は岩手大会決勝の途中で感じた右肘の違和感だった。やがて痛みに変わり、トレーナーと相談して電気治療を施しながら、投球練習をしないほぼ「ノースロ」の状態で初戦のマウンドに上がった。岩手大会の決勝から中22日の登板だった。
「最初の試合は日程に余裕があったので、良い投球ができました。それで次の試合まで同じように(ケアを)していたんですが、間に合わなかった」(松本投手)
敦賀気比戦は、
「朝起きたときから肘が痛く、試合でもボールをリリースするたびに痛かった。バッティングも肘の影響で引っ張る打球が打てませんでした。試合で投げないという選択肢もあったかもしれませんが、ここまで来て(マウンドを他の投手に)譲るという気持ちはなかったです」
という。盛岡大付の関口清治監督は、
「本人が『どうしてもマウンドに立ちたい、前回と同じように投げられる』というので先発させました。それでも無理に止めることもできたのだが……彼の想いをかなえさせたかった、というのが正直なとこです」
松本投手は今後も投手としてプレーをしていく意思だ。これまで高校・大学をあわせて150人以上の投手の身体のケアをしてきたアスレティックトレーナーの西村典子さんは、
「これからのことを考えると、早めに病院にて専門医の診察を受け、ドクターと連携できる専門家のサポートを受けることをお勧めします。キチンと肘の状態を把握し、適切な治療とコンディショニングを行うことで、投手として復活することは可能です。そういう選手は何人も見て来ました」
と、松本投手にエールを贈る。
西村さんによると、肘と肩の問題は投手の個人差が大きいそうだ。
「私がみる限りでは、肩や肘の痛みは投球フォームと筋力的な問題、バランス(軸がしっかりしているか、投げた姿勢でブレがないか等)などに左右されるように思います。肩の前が痛いと訴えるなら、私はその選手のフォームチェックから始めますね」
さらに西村さんは、
「投球障害は1日投げ込んだから翌日肩や肘が急に痛くなるという類いのものではなく、毎日の積み重ねが肩や肘に負担をかけ、徐々に痛みを発するようになります。ですから日々のコンディショニングを怠らず、投げた後にしっかりケアすることが特に投手にとっては大切です。そのためには普段の練習などから日常的にアスレティックトレーナーのサポートが受けられるような環境が望ましいと考えます」
実際、強豪校のなかには「マイ・トレーナー」を「常設」しているチームもある。ライアン投法の山城大智投手を擁する沖縄尚学では、甲子園に2人のトレーナーを帯同させていた。
「OBでトレーナーになった者にボランティアで協力してもらっています。山城だけじゃなく、野手や練習でバッティングピッチャーをやってくれるベンチ外の3年生のケアもしてもらっています」(大城英健部長)