これまで様々な役柄を演じてきた俳優・松方弘樹が、自身の演技哲学について語った。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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松方弘樹は2009年の大河ドラマ『天地人』で徳川家康を憎々しい悪役として演じた。他にも、松方が歴史上の人物を演じる際は、史実のイメージに留まらない毒々しさを放つことが多い。
「一番極端な例は『柳生一族の陰謀』で将軍家光をやった時ですね。顔に痣を作って、吃音にしてね。それをやりたいと深作欣二監督に言ったら、『おお、いいな』と乗ってくれました。弟の忠長がイイ男で家光は人望はないし風貌もよくないという設定でしたからね。
『天地人』の家康では頭に瘤(こぶ)を作りました。僕らが若い頃って、そういう人がいましたからね。渡辺謙が主演の『織田信長』で僕は斎藤道三をやりましたが、その時に最初に瘤をしたんです。それが反響がよかった。で、今度は家康が悪役だというから、普通にやったら面白くないと思って。それで宣教師の帽子で瘤を隠していて、天下人になったらそれを初めて見せるとか、先までいろいろと考えましたよ。
演じる上では悪の方が面白い。人殺しも、殺されるのも、映画やドラマの中でしかできません。それを『らしく』見せるのが演者でしょう。その時に一番『らしく』見せられるのが悪役なんです。主役は淡々としている方がいい。ずっと出ているわけですから、やり過ぎるとお客さんが飽きるんですよ。
ですから、僕も主役の時は割と流すシーンが多いです。悪や脇の時はいろいろと考えます。主役を食ってやるくらい頑張ると、主役が立ってくるんです」