役者歴40年に及ぶ俳優・滝田栄が、大河ドラマ、朝の連続テレビ小説と続けて出演したころについて語った。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。
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1979年、滝田栄は鎌倉幕府草創期を描いたNHK大河ドラマ『草燃える』に出演する。この時、滝田が演じた伊東祐之は脚本家の中島丈博が創作した人物で、御家人から転落して人生の裏街道を歩き抜き、最後は目を抉(えぐ)られて琵琶法師になるという、時代の闇を象徴する役柄だった。
「最初から中島丈博さんに『最終回の最後のシーンは出来ている。主役の権力者たちを前に平家物語を吟じてほしい。目をつぶされても、人間として心の目を開く。僕はそこを描きたい。だから汚れ果ててほしい』と言われていました。劇団四季で子ども向けミュージカルを我慢しながら演じていた時でしたから、大人の芝居ができるのが嬉しかったですね。汚れも綺麗もへったくれもない。最初からこれは面白いと思って、燃えました。
最終回の琵琶は自分で弾きました。中島さんからお話をうかがった段階でその構想はあったので『吹き替えで』と提案されても『これがやりたくて演じるんだから、絶対にやらせてほしい』って頼んだんです。それで、鶴田錦史さんという芸大の先生の所に週一で通って、目をつぶったまま『平家物語』を弾けるようになりました。で、吟じてみたら、実にいい音なんです。怨念とか恨みつらみを全て飲み込んで、真理を述べていく。
これを権力を握って有頂天になっている北条政子と義時の前で『驕れる者は久しからず……お前たちのことだ!』とやる訳ですからね。ドラマって面白いな、とゾクゾクしました。
やっぱり、いい顔だけ撮られて、実際の動きは他の人がやるというのは、つまらないんです。できることは、できるだけ自分でやりたいと思っています」