あなたは自分の「焼肉テク」に自信があるだろうか。焼肉番長、焼肉の達人を目指す人に、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がちょっとしたコツを教える。
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「食欲の秋」「実りの秋」という形容を持ち出すまでもなく、秋は食いしん坊にとってのトップシーズン。過ごしやすく食欲が増す、”人肥ゆる秋”でもある。そしてどのみち肥ゆるのなら、少しでもおいしくものを味わいたい。外食ではたいてい店が味を決めるが、食べ手に調理が任される業態ではそうとは限らない。その代表例が、客が調理をする焼肉だ。
肉の焼き方は人によって好みがわかれる。それだけに自らの焼きの流儀をつい同じ卓を囲む人に押しつけてしまいがちだ。もちろん最終的には好みの問題にはなるが、焼き台の状態や肉質、肉の厚さに応じた「基本」は間違いなくある。
まず気を配りたいのは「焼き目」。肉の表面に焼き網の模様がつく香ばしい焼き目は、肉のうまみを増幅させる。以前雑誌の企画で、焼き目のついた肉と焼き目のついていない肉を科学的な分析にかけたことがある。結果、うまみが増幅していたのは焼き目のついた肉のほうだった。焦がしてはいけないが、焼き目はほしい。ならばガスロースターの焼き網のように接地面が多い焼き台のほうが有利だ。また炭火や無煙ロースターの丸い焼き網の店ならば、網目の材が太いほうがしっかりした焼き目がつきやすい。
基本は強火で表面に焼き目をつける。あとは肉の厚みと肉質に応じて中火~弱火、ときには余熱で内部まで好みの加減で火を入れていく。ガスロースターは、直火が当たる部分の焼き網の温度が約350~400℃、中央の部分が250~300℃、隅のほうが150~200℃くらい。一方、炭火は温度ムラが大きく、カンカンに熾きた炭火だと中央は500℃を超え、周辺は250~350℃程度。炭火から外れたフチの部分は100℃以下ということもあるが、焼きのうまい人は、必ずこうした温度差を活用している。
例えば、強火ゾーンで焼きを入れると15~20秒程度で肉に焼き目がつくこともある。全面にまんべんなく焼き目をつけたければ、何度か裏返したり、網の上を移動させなければならないが、薄い肉だと軽く表裏を炙った時点で内部がミディアムレアの状態になっていることもある。いっぽう、厚切り肉なら表面の状態がベストに見える焼き上がりになっていても、肉の内部が40℃台で温度が上がりきっていないことも。焼き目をつけた後、中火~弱火ゾーンでじっくり焼いて、内部を好みの温度まで焼き上げたい。