【書評】『猟師の肉は腐らない』 小泉武夫著/新潮社/本体1400円+税
食文化の専門家として著名な著者は、ある年の夏と冬の数日間を旧知の「義(よ)っしゃん」が住む小屋で過ごした。小屋は、電気もガスも水道も来ない、福島県のとある奥深き山中にあり、「義っしゃん」はそこで一匹の猟犬とともに自給自足の狩猟採集生活を送っている。その生活には現代人が忘れた驚くべき知恵と工夫があった。
本書はそのときの体験を詳細かつユーモラスに描いたものだが、これ以外にも、最近、『猟師になりたい!』(北尾トロ著、信濃毎日新聞社刊)、『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』(田中康弘著、枻出版社刊)、『神と肉 日本の動物供犠』(原田信男著、平凡社新書)など、日本の狩猟や肉食の文化をテーマとした本が目立つ。自らも10年近く狩猟を行なっている「サバイバル登山家」の服部文祥氏が本書とそうした現象について語る。
──猪、鹿、兎、各種の鳥、あるいは岩魚、山女、泥鰌、赤蛙、蝮、縞蛇、そして蝗、蝉、兜虫……。「義っしゃん」が実にいろいろな動物を狩猟採集し、食べていることに驚きます。
服部:小泉先生は食文化や発酵の研究に関してはおそらく世界一の方です。それだけに、先生の本はいつもそうですけれど、本書でもモノを食べるときの描写が秀逸です。たとえば、燻した野兎を食べるときの描写が〈噛むと鼻孔から瞬時に煙の匂いがスーッと抜けてきて、口の中では硬い肉が歯と歯に潰されてほこほこと崩れてゆき〉……。
とても美味しそうに感じますね。生肉に塩をまぶし、囲炉裏の上に吊し、数か月掛けて煙で燻製にして長期保存するといったことから、干して揉み広げた蕗の葉を紙の代わりに排泄後に使うといったことに至るまで、自然を生かした様々な工夫も、現代人にとっては新鮮でしょう。