美智子皇后の天皇陛下への思いは、皇太子妃時代から変わらぬ姿勢で貫かれている。ご公務中はもとより日常でもふとした行動に、その強い“意思”は表われる。宮内庁出身の皇室ジャーナリスト、山下晋司氏が見たそのお姿とは。
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皇室取材では天皇皇后両陛下の仲睦まじい姿を目にする機会が多くある。
例えば今年2月、葉山御用邸(神奈川県)で静養された時のこと。両陛下が姿を現わすと住民らは拍手を送り、「美智子さま、ようこそおいでくださいました」と声をかけた。それに応えるよう、笑顔を浮かべ、会釈する両陛下。お二人が寄り添いながら腕を取り合い、ゆっくりとした足取りで海岸を散策する光景は、皇太子同妃両殿下の時代から、お互いが支え合って歩んでこられたことを象徴するようだった。
そんなお二人の関係性は、御結婚50周年の記者会見(2009年)での陛下の言葉にも表われている。
「結婚50年に当たって贈るとすれば感謝状です。皇后はこのたびも『努力賞がいい』としきりに言うのですが、これは今日まで続けてきた努力を嘉(よみ)しての感謝状です。本当に50年間よく努力を続けてくれました。その間にはたくさんの悲しいことや辛いことがあったと思いますが、よく耐えてくれたと思います」
皇后陛下が「続けてきた努力」の中には、文字通り「陛下を守る」場面が数々あった。
昭和50年7月、お二人が戦後初めての沖縄訪問で「ひめゆりの塔」に献花した際、壕に隠れていた男らが飛び出し火炎瓶を投げつけるという事件が起きた。警察庁警備局警備課長として現場にいた佐々淳行氏は、火炎瓶が投げられた瞬間、妃殿下が片手を殿下の前に伸ばして守ろうとしたと語っている。
さらに平成4年10月、山形県での国体開会式で、両陛下に向けて発煙筒が投げつけられる事件が起きた。この時、異変を察知した皇后陛下は咄嗟に右手を差し出し、陛下を庇おうとした。しかし、大事に至らないと判断されるとすぐに手を下ろし、元の姿勢に。わずか数秒の出来事だったが、その毅然とした姿は全国に報じられた。